2004年9月27日

【Aust/Env/Abs】 緑の政治とアボリジニー、オーストラリアの選挙制度

 オーストラリア連邦議会の総選挙(10月9日投票)がかなり熱を帯びてきた。下院は小選挙区制ゆえに、与党(保守連合=自由党+国民党)と最大野党(労働党)の2大政党の対立が主軸だが、民主党と緑の党が以前よりもずっと多くの票を集めるようになってきている。

 オーストラリアの選挙で面白いのが「プリファレンス」 preference というやつで、要するに、有権者は自分の一票を行使するにあたり、第1希望、第2希望、第3希望、、、というふうに、すべての候補に順位をつけて投票できる。たとえば、緑の党の支持者であれば、
 
 1 緑の党
 2 民主党
 3 労働党
 4 自由党

のように投票することもできるし、

 1 緑の党
 2 自由党
 3 民主党
 4 労働党

のように投票することもできる。いずれの場合も、あくまで1票である。

 このようにした場合、緑の党の候補が当選ラインに到達しなかった場合、この票は「死票」にはならず、「2」の候補の票にまわる。そこで、緑の党の支持者であって、それゆえ緑の党の候補に票を投じながらも、同時に、「自由党よりは労働党のほうがマシ」あるいはその逆、といったプリファレンス(選好度)を行使できるのだ。これは効きますよ。

 ある意味、きわめて民主的な制度ではあるのだが、同時にまた、現実の政党政治の力学のなかで、きわめて「政治的」な取引の材料にされるのも、このプリファレンス制度だ。

 従来は、民主党がいわゆる「均衡票」(キャスティング・ヴォート casting vote)を握ることの多かったオーストラリア政治だが、今回の総選挙では緑の党が明らかに均衡票を握っている。そこで、緑の党は、プリファレンスをどの党に与えるか、選挙区ごとに戦略的に計算し、さまざまな政策協定を提案する。(もちろん、最終的にはひとりひとりの有権者が決めることだが、どの党も選挙キャンペーンの重要な一部として、かくかくしかじかのプリファレンスをつけて投票してくれるようにと支持者に強く訴えるのが常である。)

 今回の総選挙では、タスマニア原生林の伐採問題をめぐって、緑の党が二大政党に厳しく注文をつけ、両者の森林政策しだいで、プリファレンスの配分を変えるぞという匕首をつきつけている。

 労働党は、従来、民主党にプリファレンスを与える(つまり、支持者に対して「1 労働党 2 民主党 ... 」のように投票するよう求める)のが基本だったが、ここへきていくつかの選挙区で緑の党にプリファレンスを与える方向で、緑の党と政策協定を模索してきたが、タスマニア問題は、もっとも調整の難しい懸案となって、選挙の行方を見えにくくしている。(もちろん、他にも、イラク問題、教育予算、先住民族政策など、複雑な要因が絡む。)

 タスマニアでは、アボリジニーたちが、「原生林保全」論争のなかで、森に対する先住民族の権利の問題、そして「先住民族の文化遺産としての森林」という視点が忘れ去られている、と批判している。タスマニア先住民土地評議会(TALC)のグレン・ショウ Glenn Show は、9月21日のABC放送の取材に対して、「保全のために国立公園を設定して、われわれ(アボリジニー)の森へのアクセスを奪うような政策を主張する党がある」と批判している。

 現在のところ、アボリジニー出身の唯一の議員であるエイドゥン・リジウェイ Aden Ridgeway (民主党の上院議員)は、労働党が緑の党にプリファレンスを与える(その結果、民主党がいくつかの議席を失う)ことで、結果として、上院(州毎の比例代表制)における均衡票が民主党から、よりにもよって排外主義的な右翼政党である単一民族党(One Nation Party)の手に移ってしまう、という最悪の事態もおこりかねない、と警告する。(これは、数字的にはおこりうることだ。)

 ちなみに、プリファレンス制度のおかげで、オーストラリアの連邦選挙の開票には、べらぼうに時間がかかる。極端な場合、当選者が確定するのに1週間以上かかる場合もあるが、非能率だからやめてしまえという声はあまり聞かない。日本にはプリファレンス制度がないと言うと、「それは可哀想に」と憐れまれるのがオチだ。だって、死票累々ですもんね=!

 タスマニアの原生林伐採問題については、何よりも、森林破壊の元凶は、原生林チップの9割以上を買い付けている日本の存在である、ということを私たちは忘れるべきではない。