2004年9月6日

【Nuke】 韓国で広島型原爆の開発研究

 韓国で秘密裏に高濃縮ウランの実験的生産がおこなわれていた、ということが(日本で報道されたのは9月に入ってからだが)先月末に明らかにされ、いろいろな波紋をよんでいる。韓国政府の「申告」にもとづき、すでにIAEA(国際原子力機関)の査察チームによる確認調査がおこなわれている(濃縮ウランのサンプルも入手したとのこと)。現時点では、肝心なことがほとんど明らかにされていない(実際のところ、サンプルの詳細な分析には2ヶ月以上はかかる)ので、限られた報道や専門家の論評から推測するしかないが、いくつかのポイントをメモしておこう。
 
 日本語で読める報道記事としては、日経9/4、9/5、共同ソウル発9/4、読売ウィーン発9/3、朝日9/4などが参考になる。英語で読めるものとしては、Washington Post 9/2、AFP 9/3、Reuter 9/3、Channel NewsAsia 9/4、などが、それぞれ一応の分析を試みている。


いくつかの謎:

「政府は関与せず、科学者らが自主的判断でおこなった純粋に科学的な実験」という韓国政府の言い分は本当か?  ── まぁ、それはないでしょう。テジョンの国立原研での、潜在的に核兵器生産に通じる実験を、政府がほんまに全然知らんかったなんて、それ自体たいへんなスキャンダルで、誰もそんな言い分は信じない(韓国科技省そんな間の抜けた役所ではない)でしょう。しかし、IAEAは(おそらくイランへの対応との関係と思われるが)、今回、韓国政府に対する実質的おとがめは無しですまそうとしている節があり、韓国政府の意図的違反という点を責め立てそうもない。(この点、IAEAの査察専門家たちは不満に思うに違いない。)

核兵器生産に直結するほど高濃縮のウランが生産されたのか?  ── 断言はできないが、ごく微量で実質的意味はあまりない、と見てよいのではないか。遠心分離とちがって、レーザー濃縮では確実に均一な濃度の試料が得られるわけでもない。希土類(とくに核燃料製造に関係するガドリニウムなど)の同位体分離の実験装置で天然ウランも蒸発・イオン化させて分離させてみたという、なかばイタズラ心での実験のようにも思われる。実験をする/したこと自体、政府が把握したのが事後だった、というのも本当かも知れない。しかし、実験をした科学者が核兵器級の濃縮度に至る可能性を意識していなかったとしたらウソになるだろう。(報道にある「80〜90%の濃縮度」というのは、IAEA筋からの情報とされているが、根拠は曖昧で、まだIAEAは公式には確認していない。原研の所長は否定している。)

2000年初頭におこなったとされる実験を、なぜ今になって申告したのか? ── 直接の理由としては、韓国がIAEAの追加議定書を批准(今年2月)したこと。それにともなって、実験装置の解体にあたって査察を申告していなかったことが問題とされることは避けられず、そもそも研究所内の一部の施設の空気中における微量の高濃縮ウランの存在はすでにIAEAに察知されていた。韓国政府としては、「すんません、チョンボしました。ごめんなさい」ですますタイミングを以前から計っていたのだろう。批准直後の初回報告で白状する、というのは、その意味で、分かりやすいタイミングだ。

◆ では、一件落着ですむのか?  ── そうはいかんでしょう。IAEAによるサンプル分析でどういう結果が出てくるか、まだ分からない(蒸気回収装置のどの部分から採取したサンプルかすら明らかにされていない)。解体された装置がいまどうなっているのかも確認が必要だ。それに、イランのウラン濃縮計画に対するIAEAの対応(そしてブッシュ政権の対応)が先行き見えにくい状況で、およそ好ましくないことだが、妙な混乱要因となる可能性がある。すでにイランは、当然ながら、韓国に対するIAEAの「甘い対応」を不公平だと言い立て始めている。IAEAとは独自に米国が調査に乗り出す意向を示していることも気にかかる。米国から韓国への技術流出の問題でもあり、韓国から第3国への流出という可能性も当然、問題化されるだろうから。

 真相はどうあれ、ネオコンに彼らが望む国に難癖をつけるネタをわざわざ増やしてやることはない。(さしあたり、北朝鮮問題に大きく影響することはないとしても、である。)


●参考:
ワシントンポストの記事
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A56258-2004Sep2.html
チャンネル・アジアニュースの記事
http://www.channelnewsasia.com/stories/afp_asiapacific/view/104925/1/.html
AFP通信の配信記事
http://www.spacewar.com/2004/040903115813.m08c7urb.html
ロイター通信の配信記事
http://www.planetark.com/dailynewsstory.cfm/newsid/26914/newsDate/3-Sep-2004/story.htm
IAEAの記者発表
http://www.iaea.or.at/NewsCenter/PressReleases/2004/prn200408.html