2004年10月10日

【Aust】 オーストラリア総選挙 結果と分析

AP-Greensのメーリングリストに配信した速報に加筆・修正してログにしておきます。


<10月9日投票のオーストラリア連邦総選挙>
 (下院の全150議席と、上院の76議席中40議席改選)

オーストラリアは独特の集計方法(プリファレンス=選好投票制度)をとり、有権者の第2希望、第3希望を順次数え上げていくため、最終議席が確定するまでに数日から、長いと2週間くらいはかかる。今回も、上院の5議席、下院の3議席が確定していない。大勢はすでに判明しているが、上院の最後の1〜2議席は、今後、重要法案が上院を通過するか否かを決する(いわゆる「均衡票」をにぎる)ことになるため、ひきつづき注目される。

----------------------------
結果を要約すると:
・総合的には与党(保守連合=自由+国民+地方)の勝利(=下院の過半数)
・上院の情勢は微妙(与党過半数に1議席足りない線が濃厚)
・緑の党が躍進(最終的に100万票の大台か)
・労働(最大野党)は伸び悩み、漸減
・民主(従来の第3党)は惨敗
・家族一番(Family First)党が上院に議席を得る見込み
----------------------------

●読めなかったのは最後のポイントでした。
今回はじめて連邦議会選挙に登場した「家族一番党」はキリスト教中道右派で、得票率は緑の党よりもずっと低い(2%未満)が、保守・中道(=自由・国民・民主・ほか)からの選好票(プリファレンス、次善票)を着々と集め、上院に1議席を得る可能性が出てきた(その場合、落選するのは緑)。一部メディアの推測では、選好票の出方しだいでは、2〜3議席を占める可能性すらあるという。
いずれにせよ、この党が上院の均衡票(balance of power)を握ることになる可能性がたかい。従来は、民主・緑・無所属が均衡票を握ってきたが、この変化により、上院が保守化する恐れが大。

要するに、保守・中道系が(そして労働右派でさえもが)「緑よりも家族のほうが与しやすい」と判断して選好票を流したわけで、これは、「緑の政治」を考えるうえで、なかなか深刻な要因といえる。

いや、それにしても、選挙予想なんてするもんじゃない。
小生は、投票直前、AP-GreensのMLで、緑の党の上院獲得議席を1〜3と読み、可能性が高いのが、NSW、 VIC、ACTと書いてしまったのだが、ふたを開けてみると、この3ブロックでは敗退、厳しいと見ていたTASでクリス・ミルンがはやばやと当確を決め(クリス、おめでとう!)、WAとQLDで善戦し、選好票の集計待ちの状態。
非改選2(ボブ・ブラウンとケリー・タッカー)とあわせて、3〜5議席という状況。(ボブは、メディア・インタビューでは強気で、6議席もありうる、としている。選好票の行方しだいでは、たしかに有りえなくはない。)

民主党の惨敗は、環境保護、先住民族政策にとっては、痛手だ。唯一のアボリジニー議員であったエイドゥン・リジウェイ上院議員(民主)も落選! (任期は来年6月までなので、まだしばらく活躍は続くが。)

----------------------------

以下、上院(比例代表)の各ブロックの結果
(開票率はだいたい70%台後半)

党名略記: 自由=Liberal Party 地方=Country Liberal Party (CLP) 国民=National Party 労働=Australian Labor Party (ALP) 緑=The Australian Greens 民主=Australian Democrats 家族一番=Family First Party

【クインズランド州】(改選6)
自由2、国民1、労働2が当選
最後の議席を、緑と自由が争う(選好票の集計中)。緑のドリュー・ハットン候補の当選見込み濃厚。
緑の得票率5.3%(前回は3.3%)←よく伸びた。

【ニューサウスウェールズ州】(改選6)
自由3、労働2が当選
最後の議席を、労働と緑が争う(選好票の集計中)。労働が有利か。
緑の得票率7.1%(前回は4.4%)←よく伸びた。

【ヴィクトリア州】(改選6)
自由2、国民1、労働2が当選
最後の議席を、緑と家族一番が争う。家族一番の当選が濃厚。
緑の得票率8.6%(前回は6.0%)←よく伸びた。

【南オーストラリア州】(改選6)
自由3、2労働が当選
最後の議席を、労働と進歩と家族一番が争う。報道では、進歩党(=民主党前党首のメグ・リーズ)が制するだろうとの見方が強いが、選好集計がすべて終わるまで分からず。選好票の流れ方では緑のブライアン・ヌーン候補にもかすかな可能性残る。【10/11追記: メグ・リーズは落選、彼女の票の再配分で民主と緑が浮上、労働が脱落、最後の議席は家族・緑・民主で争うことに。】
緑の得票率6.6%(前回は3.5%)←この伸びはすごい。

【西オーストラリア州】(改選6)
自由3、労働2が当選
最後の議席を、緑と自由が争う(選好票の集計中)。緑のレイチェル・シーワート候補の当選の見込みあり。
緑の得票率7.8%(前回は5.9%)←着実に伸びた。

【タスマニア州】(改選6)
自由2、労働3、緑1(クリス・ミルン)で決まり。
緑の得票率12.9%(前回は13.8%)←前回はボブが出たので得票とくに多かった。

【北部準州】(改選2)
地方1、労働1で決まり。
緑の得票率7.6%(前回は4.3%)

【首都特別区】(改選2)
自由1、労働1で決まり。
緑の得票率16.4%(前回は7.2%)←この伸びはすごい。

以上、オーストラリア中央選管のデータより、細川が集計。
選好票の集計はまだ続いている。最新情勢は、ABC放送の選挙サイトが分かりやすい。
http://www.abc.net.au/elections/federal/2004/results/
(→「The Senate」のボタンを押すと、各ブロックの最新票数が表示される。)

----------------------------
★オーストラリアの集計制度(プリファレンス=選好票=次善票の数え方)はきわめて複雑で、議席確定までにかなり時間がかかる。ここが日本ではなかなか理解されにくいところだが、開票集計に時間がかかるのは、選管がちんたらやってる訳ではなく、公平さを実に念入りに追求した集計方式をとっているためだ。(それと、郵便投票が多いせいもある。)

細川がウェブログ(9月27日)に書いたプリファレンス制度の説明は、きわめて単純化したもので、基本はその通りだが、厳密には不正確な説明。詳細な解説は、下記サイトを参照されたい。
-(上院)http://www.abc.net.au/elections/federal/2004/guide/senatevotingsystem.htm
-(下院)http://www.abc.net.au/elections/federal/2004/guide/howpreferenceswork.htm

とくに上院が複雑で、最下位議席の確定までに、百数十回も票を数え直すアルゴリズムが定式化されている。死票を極力出さないようにする合理的・民主的な制度で、よく練り上げられたものだと感心するが、手間はすごくかかる(実際の計算はコンピュータがやるとしても、検証作業が大変)。民主主義はテマ・ヒマかかる、ということの証明か。

(政党どうしの選好票の指定をめぐる権謀術数的駆け引きが「民主主義」と言えるかどうか、という問題はもちろんある。)

●緑の党の躍進についてのメディア論評としては、さしあたり次の4本がわかりやすい。

The Australian紙
http://www.news.com.au/common/story_page/0,4057,11025174%255E36275,00.html
http://www.news.com.au/common/story_page/0,4057,11025434%255E36275,00.html

The Age紙
http://www.theage.com.au/articles/2004/10/09/1097261862712.html
http://www.theage.com.au/articles/2004/10/08/1097089566178.html?from=moreStories




2004年10月9日

【Aust】 オーストラリア連邦選挙

 オーストラリア連邦総選挙の日であります。政権交代の可能性が五分五分で、最後まで予断をゆるさない。勝敗を決するのは、「選好投票(プリファレンス)制度」だろう【9月27日のログで解説した】。

 ABC放送の速報ページが9日の晩から作動しはじめる予定:
http://www.abc.net.au/elections/federal/2004/results/
(選挙区毎の速報、党別集計、どこが激戦区か、現職の当落、総合情勢など、いろんなボタンがあって、重宝する。)

 今朝の各紙は、選挙終盤の世論調査の数字を挙げているが、必ずしも一致しない。
*ニューズポール社の調査(ジ・オーストラリアン紙掲載)では、50:50で与野党互角。http://www.news.com.au/common/story_page/0,4057,11019433%255E36275,00.html
*ニルセンの調査(シドニー・モーニング・ヘラルド紙掲載)では、54:46で与党が優勢。http://www.abc.net.au/news/newsitems/200410/s1216376.htm
*ジ・エイジ紙の独自調査でも、54:46で与党優勢。 http://www.theage.com.au/articles/2004/10/08/1097089568290.html

いずれも5日(火曜)から7日(木曜)にかけて調査したものなので、直前の浮動票の動向によってひっくりかえる可能性は残る。

 ほぼ確実視されているのが、緑の党(The Australian Greens)の躍進。緑の党は、今回、上院(比例代表ブロック制)で3〜5の新議席を得る見込み。下院(小選挙区制)では、2002年の補選でえた現有1議席を失う可能性が高いが、別の小選挙区で2名が当落線上にある。上院には、非改選の2議席があり、あわせて5〜7議席を占めることになれば、重要法案の上院での採否を決する決定票を握る立場となる。

2004年10月5日

【Aust/Env】 オーストラリア:総選挙、タスマニア原生林

 9月27日のログに書いたオーストラリア総選挙(今週の土曜日が投票)の一大争点であるタスマニア原生林の伐採問題

 昨日、労働党(最大与党)が発表した森林政策(公約)は、予想以上に踏み込んだマニフェストで、環境団体や緑の党からは喝采を浴びているが、地元タスマニアの伐採業者や労働組合からは激しい反発を受けている。

労働党のレイサム党首の公約の要点は:
-原生林での新規伐採計画を凍結する
-保全価値が特に高いとされる24万ヘクタールの原生林については専門家委員会の検討に委ねる
-伐採労働者の別領域での雇用を確保するための
-植林地での林業を強化する

 上記の24万ヘクタールには、ターカイン原生林、スティックス渓谷、東山脈の森、西山脈の森など、これまで環境保護グループと伐採企業・労働組合とが、それこそ血まみれの衝突を繰り返し、「伐採禁止か皆伐か」で鋭い対立が続いてきた地域が含まれる。専門家委員会は主に環境保全や生物多様性の維持に価値をおくことになるだろうから、検討対象となる原生林の大部分は開発禁止区域となるだろう。

 タスマニアは労働党が州政権を握っていて、これまで伐採容認の立場をとってきた。今回、連邦労働党が選挙公約として、このような森林保全策を明確にしたことは、州の労働党にとっては、板挟み(労働組合からの突き上げ!)の地獄を意味し、9日の総選挙でも州の議席のいくつかを失うことになるだろう。しかし、連邦レベルで見れば、労働党の環境政策がすっきりと分かりやすいものになったと言えるし、これによって(9月27日のログに書いたように)緑の党からのプリファレンスを獲得する効果も大きいだろう。

詳しい報道は:
http://www.theage.com.au/articles/2004/10/04/1096871820641.html
http://www.theage.com.au/articles/2004/10/04/1096871814850.html
http://www.theage.com.au/articles/2004/10/04/1096871814873.html

http://www.news.com.au/common/story_page/0,4057,10973661%255E36596,00.html
http://www.abc.net.au/news/newsitems/200410/s1213072.htm
http://www.abc.net.au/news/newsitems/200410/s1212010.htm

なお、先住民族(アボリジニー)の立場については、民主党(The Australian Democrats)のリーダーであり、グンバインギル・アボリジニーでもあるエイドゥン・リジウェイ Aden Ridgeway上院議員が再度コメントを発している。
http://www.abc.net.au/news/newsitems/200410/s1212752.htm


※ABCニュース(無料サイト)の記事は、掲載から数日たつと消去されます。

2004年10月1日

【Paz】 今井くんからのメール

 ついさきほど、札幌の越田清和さんから、今井紀明君のメールが転送されてきた。再転送可とのことなので、ログに載せてしまう。

コモンズの本
http://www.commonsonline.co.jp/iraq.htm
を読んでも分かることだが、とてもいい感性と思索のちからをもったやつだ。


以下、今井くん(文中自称は「のり」)のメール:
----------------------------
 みなさんへ

 のりです。本当にメールで登場するのは久方ぶりです(もしよかったら、このメールは多くの人に転送してください)。

 やっと、すべてが落ち着いた気がしたので、メールを送ります。

 本当にみなさん、4月の事件では迷惑をかけて申し訳ないです。そして、ありがとうございました。

 9月は一ヶ月、ほとんど東京を中心に動いていましたが、沖縄の基地移設で問題になっている辺野古の取材や渋谷で路上販売をしている人たちと話したり、ストリートミュージシャンを追っかけたり、少しずつテーマが決まりつつあります。

 正直、札幌で何も話す機会がなかったので、今になってみれば、それが残念ですが、しかし、逆にいえば、それもまたいいのかもしれません。

 これから、また勉強しなおし、自分を見直していきたいと思っています。

 そのために、菜穂子や総兄と違って、事件当初以外は講演会やメディア露出などは極力避けてきました。

 一年後、帰ってきたときは、どんな人間になっているかはわかりません。前より落ちこぼれ見たいになっているかもしれないし、多少は成長しているかもしれません。

 でも、基本的に一人の人間です。

 少ない講演会の中で、「がんばってください」とか「応援しています」とか言われるのが一番嫌でしたが、でも、何人か、本当にうれしいメールを送ってくれる人がいました。それは「今井さんのおかげで、こういった社会的なことに目を向けることができた」というメッセージを受け取りました。

 ほとんどは大学生ですが、その中の2人の学生を紹介すると、一人の学生は京都の大学生で、今月、ベトナムの「子どもの家」を訪れたそうです。あと、札幌学院大学の子も、今日メールが来ましたが、ベトナムとカンボジアにいってきたそうです。

 もうひとつ、森住さんと札幌駅を歩いている時、大人からは「今時の若者は」と揶揄されそうなセンター街っぽい服装をしているガングロのお兄ちゃん2人に「今井さん、間違ったことしてないから、がんばってくださいね」と言われたことでした。

 この「がんばってください」は、僕の背中を押す一言でした。

 僕は保守系雑誌「諸君」「正論」などの愛読者ですが、そこで感じるものはやはり、左翼を異質なものへと促す意図、偏見を生み出すような「言説」が取り上げられていることです。もちろん、ちゃんとした批判も存在しますが、同じようにそういった誹謗・中傷が非常に多いのも事実でした。

 それを見て、恐ろしく平和を求める人々と保守系の人々のコミュニケーションの断絶を感じました。要するに「左」と「右」の断絶だと思います。

 また、お兄ちゃんが声をかけてきたところで、想像通り、「上」と「下」の断絶が起こっているのだとも思います。つまり、年齢によるギャップです。

 それは40代、50代の人の言葉が10代、20代の人に届いていない、逆もありえるということだと思います。それは異年齢間の交流や活動があまりに少なくなったからともいえると思いますし、それは市民活動に現れているのだとも思います。

 そういったコミュニケーションが断絶している結果、何か、年齢差によって、基本的な「根幹」が理解できないため、同じ目的を持っていても、お互いに行動できないような状況になっているのではないか、とも思っています。

 言葉足らずでわかりづらいかもしれませんが、「左」と「右」と「上」と「下」のコミュニケーションの断絶が起こっている気がしてなりませんし、それが国の右傾化にもつながっているような機がします。なんとなく、「バランス」が崩れている気が
するんです。

 これを僕は何とかしたいと考えています。僕は僕なりの方法をすでに考えて、それを実践し始めていますが、皆さんと一緒に、それを考えられればと思っています。

 えらそうなことをいっている気がしますが、今回の事件後、なんとなくですが、上述したような仮説を立て、それをどう解決するか(それは左と右のバランスを戻すという意味で)と自分なりに考えているところです。

 浅薄な人間ですが、そんな人間でも、心と頭があります。そして、足も手も目も鼻もあります。身体一杯を使って、これから、これから、テーマを追って行って、できれば多くの人に伝えられる人間になれれば、と思っています。

 僕のテーマは「人間の表現」です。これからもよろしく。


 のり