2004年9月29日

【Paz】 人質解放(*´ο`*)

けさ、アジア太平洋資料センター(PARC、パルク)のMLに流した知らせです。


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京都)細川です。

朝の寝床のなかでねぼけつつ耳にしたNHKラジオ・ニュースで朗報です。

(すでに昨夜報道されていたら、ごめんなさい。知らなかった。)


A Bridge to Bagdad(バグダッドの貧民街で子どもの教育支援をするイタリアのNGO)のメンバーで、9月7日に誘拐されていたシモーナ・トレッタさん、シモーナ・パリさん、そしてイラク人スタッフのラハドさん、無事解放されたそうです。


いま、アルジャジーラをあけてみたら、ちゃんと出てました。

http://english.aljazeera.net/NR/exeres/DE75587F-5447-4BD1-946A-FAF05C4E2CD5.htm


このNGOは、パルクの医療支援を現地に中継してくれたNGOですよね!

9月中旬には「殺害された」との(未確認?)情報も流れていて、暗澹たる気持ちになっていたので、まずは単純にほっとしています。


地についた活動をきちんとしていたNGOだから殺害されずに解放されたのか、そんな単純な話ではないのか、背景よくわからず、釈然とはしませんが。


とりいそぎ



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以上、PARCmlへのポストでした。


PARCが5月からおこなっているイラク医療支援については、このブログの「お気に入りサイト」にあるアジア太平洋資料センターのホームページをご覧下さい。


2004年9月27日

【Aust/Env/Abs】 緑の政治とアボリジニー、オーストラリアの選挙制度

 オーストラリア連邦議会の総選挙(10月9日投票)がかなり熱を帯びてきた。下院は小選挙区制ゆえに、与党(保守連合=自由党+国民党)と最大野党(労働党)の2大政党の対立が主軸だが、民主党と緑の党が以前よりもずっと多くの票を集めるようになってきている。

 オーストラリアの選挙で面白いのが「プリファレンス」 preference というやつで、要するに、有権者は自分の一票を行使するにあたり、第1希望、第2希望、第3希望、、、というふうに、すべての候補に順位をつけて投票できる。たとえば、緑の党の支持者であれば、
 
 1 緑の党
 2 民主党
 3 労働党
 4 自由党

のように投票することもできるし、

 1 緑の党
 2 自由党
 3 民主党
 4 労働党

のように投票することもできる。いずれの場合も、あくまで1票である。

 このようにした場合、緑の党の候補が当選ラインに到達しなかった場合、この票は「死票」にはならず、「2」の候補の票にまわる。そこで、緑の党の支持者であって、それゆえ緑の党の候補に票を投じながらも、同時に、「自由党よりは労働党のほうがマシ」あるいはその逆、といったプリファレンス(選好度)を行使できるのだ。これは効きますよ。

 ある意味、きわめて民主的な制度ではあるのだが、同時にまた、現実の政党政治の力学のなかで、きわめて「政治的」な取引の材料にされるのも、このプリファレンス制度だ。

 従来は、民主党がいわゆる「均衡票」(キャスティング・ヴォート casting vote)を握ることの多かったオーストラリア政治だが、今回の総選挙では緑の党が明らかに均衡票を握っている。そこで、緑の党は、プリファレンスをどの党に与えるか、選挙区ごとに戦略的に計算し、さまざまな政策協定を提案する。(もちろん、最終的にはひとりひとりの有権者が決めることだが、どの党も選挙キャンペーンの重要な一部として、かくかくしかじかのプリファレンスをつけて投票してくれるようにと支持者に強く訴えるのが常である。)

 今回の総選挙では、タスマニア原生林の伐採問題をめぐって、緑の党が二大政党に厳しく注文をつけ、両者の森林政策しだいで、プリファレンスの配分を変えるぞという匕首をつきつけている。

 労働党は、従来、民主党にプリファレンスを与える(つまり、支持者に対して「1 労働党 2 民主党 ... 」のように投票するよう求める)のが基本だったが、ここへきていくつかの選挙区で緑の党にプリファレンスを与える方向で、緑の党と政策協定を模索してきたが、タスマニア問題は、もっとも調整の難しい懸案となって、選挙の行方を見えにくくしている。(もちろん、他にも、イラク問題、教育予算、先住民族政策など、複雑な要因が絡む。)

 タスマニアでは、アボリジニーたちが、「原生林保全」論争のなかで、森に対する先住民族の権利の問題、そして「先住民族の文化遺産としての森林」という視点が忘れ去られている、と批判している。タスマニア先住民土地評議会(TALC)のグレン・ショウ Glenn Show は、9月21日のABC放送の取材に対して、「保全のために国立公園を設定して、われわれ(アボリジニー)の森へのアクセスを奪うような政策を主張する党がある」と批判している。

 現在のところ、アボリジニー出身の唯一の議員であるエイドゥン・リジウェイ Aden Ridgeway (民主党の上院議員)は、労働党が緑の党にプリファレンスを与える(その結果、民主党がいくつかの議席を失う)ことで、結果として、上院(州毎の比例代表制)における均衡票が民主党から、よりにもよって排外主義的な右翼政党である単一民族党(One Nation Party)の手に移ってしまう、という最悪の事態もおこりかねない、と警告する。(これは、数字的にはおこりうることだ。)

 ちなみに、プリファレンス制度のおかげで、オーストラリアの連邦選挙の開票には、べらぼうに時間がかかる。極端な場合、当選者が確定するのに1週間以上かかる場合もあるが、非能率だからやめてしまえという声はあまり聞かない。日本にはプリファレンス制度がないと言うと、「それは可哀想に」と憐れまれるのがオチだ。だって、死票累々ですもんね=!

 タスマニアの原生林伐採問題については、何よりも、森林破壊の元凶は、原生林チップの9割以上を買い付けている日本の存在である、ということを私たちは忘れるべきではない。


2004年9月18日

【Env】 大野和興さんを迎えて、農と土を語り合う

 15日から大野和興さんを迎えて集中講義「日本の農を考える」を小生の職場である京都精華大学でしていただいている。毎晩のように、学生たちを交えて、大野さんと杯をかわしつつ、いろいろお話をうかがえるのが嬉しい。


 小生のゼミに、「土の売買」をテーマにして調査演習(※)を始めている学生がいるのだが、昨晩、大野さんから教えてもらったところ、ハウス農家は土を買わないとならない、というので、おどろいた。昔のような小規模のビニールテントを随時移動させる方式から、大型の固定設備としてのビニールハウスが主流となった現在では、ハウス内の土の塩性化が問題なんだという。


 説明をきいて、なるほどと思う。ハウス内は雨がふらない。だから人為的に散水する。そうするとどんどん地中の塩分が(毛細管現象で)あがってくる。雨がふれば、それが流されて、過度の塩性化には至らないのだが、ハウス内では、どんどん土壌塩分が濃くなってしまう。そこで、ときどき土をいれかえてやらないといけないのだそうだ。その土を買う。全国のハウスの数を考えると、はんぱな量ではない。


 さて、その土、どこから、誰が運んでくるのか。



※京都精華大学独自の(非常識な?)カリキュラムである「調査演習」については:

http://www.kyoto-seika.ac.jp/jinbun/kankyo/class/2003/research/index.html


2004年9月12日

【Nuke】 韓国、プルトニウム実験も

 先日(9/6)書いた韓国のウラン実験だが、その後、プルトニウム抽出実験まで明るみに出てきて、ややこしくなってきた。目にとまったなかで興味深い続報を3つだけ挙げておく。


ワシントンポストの論評

http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A9761-2004Sep9.html


ジャパンタイムスの論評

http://www.japantimes.co.jp/cgi-bin/geted.pl5?eo20040909tp.htm


ノーチラス研究所の分析記事

http://www.nautilus.org/archives/pub/ftp/napsnet/special_reports/0435-ROK.html


2004年9月11日

【Abs/Libros】 歴史をつむぐ人々

 お茶の水書房から、出来たてほやほやの『ラディカル・オーラル・ヒストリー』が送られてきた。5月に亡くなった保苅実くんの遺作となってしまった本だ。


保苅 実(2004)『ラディカル・オーラル・ヒストリー ── オーストラリア先住民アボリジニの歴史実践』御茶の水書房 2,200円


この本の出版準備の最後の最後になって、保苅くんの作りかけの図版の仕上げをお手伝いすることになった。でも、編集者とのメール・電話・ファックスでのやりとりでは、詰めの甘いところもあって、結局、いくつかミスが残ってしまった。


図版8で「バルンガ(バミラ)」とあるのは、正しくは「バルンガ(バミリ)」です。現在のコミュニティの名前はBamilyi(旧名Barunga)。土地権運動で有名なバルンガ宣言の村だ。保苅くんがそのことにふれて書いているので、図版には「旧地名(現在の地名)」という形で載せることになった。


 図版9の Hooker Creek自治区は、現在は Lajamanu に正式に名前が変わっている。


 保苅くんらしい批判精神とポジティブな姿勢とが、ちょっと照れながらも同居している感じの作品だと思う。皆さんもぜひ手にとって見てほしい。



「保苅実記念奨学金」については

こちら↓

http://www.hokariminoru.org/j/scholarship-j/scholarship2_biography-j.html


保苅くんのメモリアル・サイトは

こちら↓

http://www.hokariminoru.org


2004年9月9日

【Abs】 スウェーデン政府、アボリジニーの遺骨を返還

 アボリジニーが豪州国内や欧州の博物館(あるいは大学や医学施設など)に所蔵されている ── さすがに最近は「陳列」されているということはなくなった ── 遺骨・遺骸などの返還(repatriation)を求める運動が、小生が注意してその動向をウォッチし始めてからでもすでに15年以上続いているのだが、最近、次々と成果があがるようになってきた。


 昨年10月、スウェーデン政府が国立民族誌博物館に収蔵されていた十数体のアボリジニーの遺骨の返還を申し出て、その後、出身地域の調査がすすみ、このほどようやくオーストラリアに里帰りする運びとなった。9月7日のABCニュースによれば、今月にも出身部族の代表者がストックホルムに出向いて、受け渡しの儀式をするという。

http://www.abc.net.au/news/newsitems/200409/s1193651.htm


 豪州国内の博物館や大学資料館は、ここ数年、このような返還にかなり協力するようになってきたが、英国をはじめ、欧州ではまだ反応が鈍い。国家として積極的に対応したのは、スウェーデンが最初ではないかしら。(国としては、アイルランドの医学機関が返還に応じた先例はある。) 


 ストックホルムの博物館に収蔵されていた骨は、エリック・ミョーベルイ(Eric Mjoberg)という山師的な人類学者が20世紀初頭に、キンバリー地方やクインズランドなどで「収集」(盗掘)したもので、「カンガルーの骨だ」といつわって持ち出したという逸話が残る。


 遺骨や遺髪などの里帰りは、研究倫理と政治的公正の問題でもあるが、アボリジニーにとっては、なんと言っても宗教的な理由も大きい。死者は自分のドリーミング(トーテム)の土地に戻って、しかるべき儀礼とともに埋葬されなければ、その死者が浮かばれないばかりか、他のさまざまなドリーミングとのバランスが狂い、アボリジニーの宗教的世界観からすれば“世界秩序に対する驚異”となりかねないからだ。


 今回、里帰りする遺骨(子供の骨を含むと言われる)も、それぞれの故地で、それぞれの土地の儀礼により、あらためて葬られることになる筈だ。

 

 返還請求運動は、遺骨だけでなく、文化財に対してもおこなわれる。とりわけ、氏族(クラン)の聖物(ものとしては、線刻をほどこされた石であったり、彩色をほどこされた木彫りであったり、草や動物の毛で編んだ工芸物であったりする)やそれにまつわる物品は、強く返還が求められている。博物館・研究者側としても「資料価値」の高いものだったりするので、なかなか里帰りの話はまとまらない。

 

 先日も、大英博物館の「所蔵品」となっている古いアボリジニー工芸品が、メルボルンに里帰り展示されていたのを、ジャジャウロン(ビクトリア州南西部のアボリジニー集団)の求めで、州裁判所が差し押さえたので、大英博物館が激しく反撥する、という一件があった。(この件は、まだ決着がつかず進行中だときくので、注意して経過をみておきたい。)

 

 アボリジニー側が、政治的思惑から「為にする」ような返還請求をするという例も無くはないのだが、大きな流れとしては、歴史の見直しをいかに実践するかという問いかけであり、当然、アイヌ民族の遺骨・遺品の返還運動とも呼応しあう要素がそこにはある。


2004年9月8日

【Nuke】 推進派、美浜事故に学んで ... るんか?!

 9月2日付の讀賣新聞で、石川迪夫(元北大教授)が「美浜事故から学ぶこと」という論説を書いている。ご存じ、原発推進派の知恵狸のような御仁だが、今回の事故を「放射能漏れや炉心溶融とは無縁の、一般産業面での事故」と言い切っているので、びっくらこいた。


 原発の隅から隅までを知り尽くした技術者が、こんなあからさまなウソをついていいんだろうか。二次冷却水が一気に7割失われたという事故だ。どこかでひとつポンプが動かなかったりしたら、蒸気発生器が空焚きになって、炉心溶融(メルトダウン)に直結する。


マスコミの皆さん、このあたりをきっちり確認をとって、書かなきゃだめよ。

 


【訂正】

「ジャビルカ通信」、番号ふりまちがい

 9月1日発信のは、147号ではなくて、149号でした。ごめんなさい。

※バックナンバーは、http://SaveKakadu.org/


2004年9月7日

【Abs/Nuke】 アボリジニーの先住権訴訟、ウラン開発ほか

 8月はアボリジニー関連のニュースが多かった。ちゃんとニュース発信できていないが、取り急ぎ、いくつかメモ:

●ビクトリア州議会で、アボリジニーがビクトリア植民地成立(1854年)の時点での先住者であり、custodians of the land「土地の守人」であったこと、彼らの土地および水域(川や湖沼や海のこと)と「精神的・社会的・文化的および経済的な関係をもっていたこと」を州の憲法に明記する法案(州政府案)が提出された(8/26)。法案では、現代においてもビクトリア州のアボリジニーの人々が「オーストラリアの最初の人々の子孫として独自の地位をもつ」と州憲法に明記することが提案されている。可決される可能性が高いが、そうなれば、オーストラリアではじめて州憲法に先住民族の地位を明記した州になる。

●アボリジニーの先住権訴訟としても有数の規模をもつワンジナ訴訟 Wanjina claim (西オーストラリア州北部、キンバリー地方)の判決(8/27)。アボリジニー側、勝訴だ。ざっと北海道の面積に近い広汎な地域での先住権原(native title)の存在が認定され、鉱山開発にあたっての交渉権や、儀礼のための土地立ち入り権、有名なワンジナ岩絵群を観光開発から守る権利などがこれで法的に確立することになる。 1986年に初めてモワンジュム Mowanjum の村を訪れたときに、人々が語っていた希望がようやく形になったと思うと、感慨をおぼえる。小生がそのとき言葉をかわした長老たちの多くは鬼籍に入ってしまったのだが。

●『ジャビルカ通信』で何度もお伝えしてきた南オーストラリア州での核廃棄物処分場の立地案を連邦政府が断念。根強く抵抗してきたクーバ・ペディ Coober Peddy のアボリジニーにとっては朗報だが、たちまち、北部準州(Northern Territory)での代替地探しの動きが活発になってきた。NTでアボリジニーと関わらない立地点を探すことなど不可能。また当分、目が離せない。

●レンジャー鉱山 Ranger Uranium Mine は度重なる汚染事故で管理責任をとわれ、現在、操業停止中。会社側は、来週あたりから操業再開したい意向らしいが、どうなるか。来月(だっけ?)の総選挙でもし労働党が政権を取り戻すと、レンジャー鉱山からのウラン輸出許可の取り消し(ないし一時凍結)というシナリオが現実性を帯びてくる。


『ジャビルカ通信』のバックナンバーは、下記サイトにて:
http://SaveKakadu.org


... ここ数日、ちょいと事情あって、食事制限管理下にあり、どうにも意識がしゃきっとしません。ふらふらでございます。予定通り明日の午後で検査が終われば、夜から食うぞ!

2004年9月6日

【Nuke】 韓国で広島型原爆の開発研究

 韓国で秘密裏に高濃縮ウランの実験的生産がおこなわれていた、ということが(日本で報道されたのは9月に入ってからだが)先月末に明らかにされ、いろいろな波紋をよんでいる。韓国政府の「申告」にもとづき、すでにIAEA(国際原子力機関)の査察チームによる確認調査がおこなわれている(濃縮ウランのサンプルも入手したとのこと)。現時点では、肝心なことがほとんど明らかにされていない(実際のところ、サンプルの詳細な分析には2ヶ月以上はかかる)ので、限られた報道や専門家の論評から推測するしかないが、いくつかのポイントをメモしておこう。
 
 日本語で読める報道記事としては、日経9/4、9/5、共同ソウル発9/4、読売ウィーン発9/3、朝日9/4などが参考になる。英語で読めるものとしては、Washington Post 9/2、AFP 9/3、Reuter 9/3、Channel NewsAsia 9/4、などが、それぞれ一応の分析を試みている。


いくつかの謎:

「政府は関与せず、科学者らが自主的判断でおこなった純粋に科学的な実験」という韓国政府の言い分は本当か?  ── まぁ、それはないでしょう。テジョンの国立原研での、潜在的に核兵器生産に通じる実験を、政府がほんまに全然知らんかったなんて、それ自体たいへんなスキャンダルで、誰もそんな言い分は信じない(韓国科技省そんな間の抜けた役所ではない)でしょう。しかし、IAEAは(おそらくイランへの対応との関係と思われるが)、今回、韓国政府に対する実質的おとがめは無しですまそうとしている節があり、韓国政府の意図的違反という点を責め立てそうもない。(この点、IAEAの査察専門家たちは不満に思うに違いない。)

核兵器生産に直結するほど高濃縮のウランが生産されたのか?  ── 断言はできないが、ごく微量で実質的意味はあまりない、と見てよいのではないか。遠心分離とちがって、レーザー濃縮では確実に均一な濃度の試料が得られるわけでもない。希土類(とくに核燃料製造に関係するガドリニウムなど)の同位体分離の実験装置で天然ウランも蒸発・イオン化させて分離させてみたという、なかばイタズラ心での実験のようにも思われる。実験をする/したこと自体、政府が把握したのが事後だった、というのも本当かも知れない。しかし、実験をした科学者が核兵器級の濃縮度に至る可能性を意識していなかったとしたらウソになるだろう。(報道にある「80〜90%の濃縮度」というのは、IAEA筋からの情報とされているが、根拠は曖昧で、まだIAEAは公式には確認していない。原研の所長は否定している。)

2000年初頭におこなったとされる実験を、なぜ今になって申告したのか? ── 直接の理由としては、韓国がIAEAの追加議定書を批准(今年2月)したこと。それにともなって、実験装置の解体にあたって査察を申告していなかったことが問題とされることは避けられず、そもそも研究所内の一部の施設の空気中における微量の高濃縮ウランの存在はすでにIAEAに察知されていた。韓国政府としては、「すんません、チョンボしました。ごめんなさい」ですますタイミングを以前から計っていたのだろう。批准直後の初回報告で白状する、というのは、その意味で、分かりやすいタイミングだ。

◆ では、一件落着ですむのか?  ── そうはいかんでしょう。IAEAによるサンプル分析でどういう結果が出てくるか、まだ分からない(蒸気回収装置のどの部分から採取したサンプルかすら明らかにされていない)。解体された装置がいまどうなっているのかも確認が必要だ。それに、イランのウラン濃縮計画に対するIAEAの対応(そしてブッシュ政権の対応)が先行き見えにくい状況で、およそ好ましくないことだが、妙な混乱要因となる可能性がある。すでにイランは、当然ながら、韓国に対するIAEAの「甘い対応」を不公平だと言い立て始めている。IAEAとは独自に米国が調査に乗り出す意向を示していることも気にかかる。米国から韓国への技術流出の問題でもあり、韓国から第3国への流出という可能性も当然、問題化されるだろうから。

 真相はどうあれ、ネオコンに彼らが望む国に難癖をつけるネタをわざわざ増やしてやることはない。(さしあたり、北朝鮮問題に大きく影響することはないとしても、である。)


●参考:
ワシントンポストの記事
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A56258-2004Sep2.html
チャンネル・アジアニュースの記事
http://www.channelnewsasia.com/stories/afp_asiapacific/view/104925/1/.html
AFP通信の配信記事
http://www.spacewar.com/2004/040903115813.m08c7urb.html
ロイター通信の配信記事
http://www.planetark.com/dailynewsstory.cfm/newsid/26914/newsDate/3-Sep-2004/story.htm
IAEAの記者発表
http://www.iaea.or.at/NewsCenter/PressReleases/2004/prn200408.html

2004年9月2日

【Abs】 アボリジニー伝統法とオーストラリア多文化主義の冒険

 昨年(2003年)9月に西オーストラリア州ホールズクリーク Halls Creek でおきた殺人事件のことが気になっていたのだが、昨日、パースの州高裁(Supreme Court)で判決があった。執行猶予つき禁固3年。犯人のアボリジニー女性は、同じくアボリジニーである内縁の夫を刺して、死に至らしめた。この事件がややこしいのは、殺人に対するアボリジニーの伝統法(部族法)では、殺された男の親族が犯人である彼女(あるいは場合によっては彼女の母の兄弟)に復讐することが認められる(...というよりは、復讐することが義務である)からだ。

● ホールズクリークでは、上記のような伝統法が生きている。
● 裁判はヨーロッパ法にもとづき「白人の裁判所」でおこなわれる。
● 西オーストラリア州では、アボリジニーの伝統法を一定程度まで尊重・配慮するための司法ガイドラインを検討中で、この裁判はひとつのテストケースと見なされてきた。
● 被告の女性(32才)は、欧州法の刑罰と部族法の刑罰の二重の刑を受ける恐れがあり、もしそうなったら、人権上、不当である、との議論が優勢だった。
● 被告自身は、部族法による刑罰を強く恐れており、「部族法で裁かれるくらいなら、(白人の法廷で)死刑にしてくれ」とまで主張していた。(これはレトリックの部分もあるだろうが。)
● 結局、判事は「執行猶予」をつけることで、二重刑罰の問題を回避した。
● しかし、部族法にもとづき、殺された夫の親族(あるいはその代理人)が彼女を傷つければ(あるいは死に至らしめれば)、今度はまた欧州法にもとづき、その「犯人」を逮捕しなければならなくなる。
● そこで、司法は、彼女に対して保護措置をとり、ホールズクリークから少し離れた町のアボリジニー・コミュニティに彼女を預けることにするらしい。

 そもそも、昨年の事件が気になっていた理由は、彼女が夫の太ももを刺した、ということだったからだ。太ももを刺すのは、アボリジニーの文化では、正当な復讐の手段であり、いわば、それで一件落着となる可能性のあるやり方であった。ところが、失血の具合が悪かったのか、夫は死んでしまった。(今回の欧州法による判決でも、そのあたりは考慮されていて、いわゆる「故殺」 ── 犯罪小説の好きな方の言葉でいえば「2級殺人」、日本流に言えば「傷害致死」── として短い刑期が言い渡されている。)

 報道によれば、州の法曹界では、今回の「執行猶予」判決を妥当とする見方が支配的で、これにより、アボリジニー法への配慮の流れが促進されるだろう、ということのようだ。ことはそう簡単にはいかないと小生は思うのだが、オーストラリア文化多元主義の冒険はまだまだ続く。


※参照報道
http://www.abc.net.au/news/newsitems/200409/s1189869.htm
http://www.abc.net.au/news/newsitems/200409/s1190347.htm


2004年9月1日

weblog はじめます

うぇぶろぐ開店、どうぞよろしう

 細川弘明です。こんばんは!

 避けがたき事情やら情けな〜い理由やらで、メールニュースの配信とどこおり気味につき、 weblog にて雑感・雑報を記しておくことにいたします。関連して、お気づきの点、ご存じのこと、ありましたら、ぜひぜひご教示くださいませ。
         ── pH 59年 長月1日 水曜 ──




【げんぱつ/メディア】

 昨晩のNHKクローズアップ現代で美浜事故をとりあげていたのを山猫さんが録画しておいてくれた。見たけど、なんだい、ありゃ。2次系の事故が原子炉本体におよぼす危険性にひとっことも触れないとは。「点検さえしてりゃ、大丈夫なのに=!」てな安直なまとめかた。おいおい、NHK、ちょっとひどいよ。



【げんぱつ/MagpieNews】

 小生配信の「MagpieNews: Nukes Headliner」を原子力資料情報室のホワイトさんがウェブページに組み入れてくれた。謝々! おかげで、読者がぐっと増えたみたいだわ。
 ↓このアドレスでご覧ください。
http://cnic.jp/english/news/magpienews/magpienews.html