2005年10月18日

【Aust】 オーストラリア総選挙 上院のもつれ、緑の党の趨勢

 上院の集計が進んでいるが、例によって、最後の最後まで結果が分からない州が多い。(開票・集計になぜこれほど時間がかかるかは、10月10日のログを参照)。

 クインズランド州とタスマニア州で当選ほぼ確実と思われていた緑の党が、ここへ来て、危うくなってきている。これは、自由・労働・民主などの既成政党が選好票(プリファレンス)を緑の党よりもキリスト教右派の「家族一番」党(Family First Party)にまわしており、家族一番からの選好票も、緑よりは民主や労働や自由にまわっているためだ。

 ABC放送の政治評論家アントニー・グリーンの選挙分析によると、緑の党は、西オーストラリア州では議席を得る見込みだが、クインズランド州とタスマニア州で逆転敗退する可能性が高い。彼の選挙分析には定評がある。

 彼の票読み(選好票の再配分の詳細なシミュレーション)の結果を要約すると、次のようになる。(10月18日時点)

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● Antony Greenの分析(数字は各州ブロックの獲得議席数、定数は各6)

-WA 自由3 労働2 緑1 Rachel Siewert(←労働からの選好票により当選)
-QLD 自由3 国民1 労働2 (緑の Drew Hutton にもかすかな可能性)
-SA 自由3 労働3(←家族一番党からの選好票により3議席めを確保) 緑は可能性なし
-VIC 自由3 労働2 家族1 Steve Fielding 緑は可能性なし
-NSW 自国3 労働3 緑は可能性なし
-TAS 自由3 労働2 家族1 Jacquie Petrusma (←民主・労働・自由からの選好票により急浮上) 緑のChristine Milneにもかすかな可能性【分析後述】

※民主党と労働党が選考票を家族にまわしたのが痛い!
タスマニア州での集計見通しについて、アントニー・グリーンの分析は次の通り。
(ABC放送の選挙サイト http://www.abc.net.au/elections/federal/2004/results/sendTAS.htm)

If all votes are assumed to be ticket votes, then the final vacancy in Tasmania goes to Jacquie Petrusma of Family First ahead of Christine Milne from the Greens. However, the final margin of victory is only 4,300 votes. In 2001, one in five Tasmanian votes, or around 60,000 ballot papers, were cast below the line. Christine Milne is a well known political figure in the state, and it is quite likely that many below the line votes from the Labor, Liberal and Australian Democrat tickets will leak to Milne. The final result in Tasmania will now be known until all below the line votes are entered into the computer counting system, and the button is hit to distribute preferences.

(説明をおぎなって訳すと: 選好票の再配分が、すべて政党への投票(=チケット投票)にもとづいておこなわれるとすれば、上院タスマニア選挙区の最後の議席(=未確定の6つめの議席)は、家族一番党の名簿第1位ジャッキー・ペトルーズマ候補のものとなり、これまでリードしていた緑の党のクリスティーヌ・ミルン候補は落選することになる。その場合の票差は、わずかに4,300票だろう。前回2001年の上院改選では、有権者の5人に1人、票数にして約6万票は、政党にではなく候補者個人に投じられた。クリスティーヌ・ミルンはタスマニアでは知名度の高い政治家であり、労働党・自由党・民主党などの支持者が投票にあたって、選好票をミルン候補にまわすよう個人指定して投票した可能性はかなりある。したがって、この州の上院の確定議席を知るためには、これら個人指定の選好票がすべて集計入力され、電算機により選好票の再配分計算をしなければならないだろう。)

※【補足説明】 オーストラリアの選挙では、有権者は、政党に投票することも、候補者個人に投票することもできる。前者を「チケット投票」という。各政党は、自分の党の候補者が落選した場合、その票をどの党に再配分するかを優先順位つきで細かく指定している。それに対して、個人候補に投じられた票は、有権者が選好票の配分も個別に指定する(順番に番号をうつ)ことができる。上院選挙では数十名の候補が立候補しているので、これはなかなかに大変な作業(投票用紙も新聞をひろげたような大判の紙!)で、多くの有権者は簡単なチケット投票を選ぶのだが、タスマニアでは個人候補への投票を選ぶ有権者がほかの州よりも多い傾向がある。

※オーストラリアの選挙制度における「選好票」(プリファレンス、次善票配分)については、10月10日および9月27日のログを参照。