2005年10月31日

【Aust】 オーストラリアの選挙結果が確定、アボリジニーの国会議員はゼロに

10月28日に AP-Greens のメーリングリスト
http://groups.yahoo.co.jp/group/AP-Greens
に配信したテキストに、大幅な加筆と数字の訂正を加えて、ここに掲載します。

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 接戦で、選好票(プリファレンス票、次善票) ── オーストラリアの選挙制度では、ある候補者の落選が確定した場合、その候補者の票が有権者の指定にもとづいて別の(まだ落選確定していない)候補者に再配分される ── の集計に時間がかかっていた上院議員選挙だが、10月28日にすべての州で議席が確定した。

 最後の最後までもつれこんだクインズランド州、国民党が最後の上院議席を獲得し、緑の党の名簿第1位ドリュー・ハットン候補は、残念ながら次点に終わった。
http://www.abc.net.au/news/newsitems/200410/s1229626.htm

 緑の党の上院議員は、非改選の2名をあわせて、4名(うち女性3)となった。タスマニア州のクリスは、ひやひやさせられたが当選した。しかし、クインズランド州で及ばなかったことで、与党保守連合が(下院にひきつづき)上院の過半数(76議席中の39議席)を制することになった。
http://www.abc.net.au/news/newsitems/200410/s1229626.htm

 これまで、保守連合のハワード長期政権下でも、上院はつねに野党が多数をしめ、重要案件についての政府案はたびたび否決されたり修正を強いられた。先住民族の土地権をめぐる1997年のマボ修正法(ウィック法案)をめぐる攻防は記憶に新しい。

 連立与党が上下両院を制したことで、今後、森林政策、エネルギー政策、温暖化対策、安保政策、自由貿易、社会福祉などの面で、反動的な法案が次々と出てくるおそれが大きい。
http://www.theage.com.au/articles/2004/10/27/1098667835621.html

 今回の選挙で選ばれた新しい上院議員の任期は2005年7月からであり、それまでは現状の「ねじれ」(上院では与党が少数)が続くので、11月からの会期ですぐに極端な動きはないものと思われるが、しかし既に、京都議定書を拒否する方針の継続、先住民族行政委員会(ATSIC)を廃止する方針の維持、公立大学(現在は州政府が管轄)を「国立化」する(連邦政府の管轄下におく)方針
http://www.theage.com.au/news/National/Union-threatens-action-over-changes/2004/11/02/1099362143359.html
などといった動きが目立ち、さらには、インドネシア領内の「テロリスト」の拠点への先制攻撃の検討(!)
http://www.theage.com.au/news/War-on-Terror/No-preemptive-strikes/2004/11/02/1099362144230.html
などといった物騒な観測気球までがあがっている。

 惨敗した民主党は、党首アンドリュー・バートレットが副党首にしりぞき、リン・アリスン上院議員が党首となる模様(彼女のこれまでの政治姿勢からすれば、緑の党とのさまざまな連携が考えられる)。唯一の先住民族出身議員だったエイドン・リジウェイ上院議員(NSW州選出、民主党)は落選した。アボリジニーの国会議員はこれでゼロとなった。


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上院での新勢力の分布は、下記の通り(2005年7月より)

 与党(保守連合)39 (自由党33、国民党5、地方自由党1)
 労働党     28
 緑の党      4
 民主党      4
 家族一番党    1

 ※単一民族党(One Nation Party)は全員落選して、議席を失った。


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下院での新勢力の分布と第1得票率は、下記の通り(2004年11月より)

 保守連合 87(46.8%)(自由党74 [40.9%]
              国民党12 [5.9%]
              地方自由党1 [0.3%] )
 労働党  60(37.7%)
 緑の党   0( 7.1%)
 家族一番党 0( 2.0%)
 民主党   0( 1.2%)
 単一民族党 0( 1.2%)
 その他   0( 6.0%)

 ※緑の党は、NSW州での唯一の議席を失った。民主党、家族一番党、単一民族党は、もともと下院議席をもっていない。
 ※「第1得票率」は、選好票が再配分される前の第1希望候補の得票率。

2005年10月30日

【Aust/Nuke/Env】 カカドゥのウラン鉱山で汚染事故

 オーストラリア北部、世界遺産カカドゥ国立公園地域で操業している唯一のウラン鉱山であるレンジャー鉱山(※)で小規模な汚染事故があったようです。

(※)リオティントの子会社ARE社が運営し、関西電力・四国電力・九州電力に核燃料用の酸化ウランを供給している。

以下、メルマガ「ジャビルカ通信」で出す予定のメモを載せておきます。
「ジャビルカ通信」の既刊分は次のサイトで読めます。
http://SaveKakadu.org

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レンジャー鉱山に併設のウラン製錬所内の
イエローケーキ(精製済み八酸化三ウラン)をドラム缶につめる設備内で作業員が汚染された模様。ただし、3月の事故(※※)のような内部被曝には至らなかったようだ。
http://www.theage.com.au/articles/2004/10/29/1099028207016.html
http://www.abc.net.au/news/newsitems/200410/s1231263.htm
http://www.abc.net.au/news/newsitems/200410/s1231129.htm

(※※)ウラン精製施設の処理水の配管の接続をまちがえて(!)、作業員の飲み水やシャワーの水にウランその他の放射性物質が混入し、150名以上が被曝した事故。製錬所内の水道水のウラン濃度は規制値の400倍に達した。

くしくも、ちょうど(3月の事故の責任をめぐる)行政裁判が始まっており(鉱山管理法違反として、9月末提訴)、早ければ今月下旬には、裁判所の判断が出る。
http://www.abc.net.au/news/newsitems/200411/s1233598.htm
http://www.abc.net.au/news/newsitems/200411/s1233377.htm

おそらく日本円にして数百万程度の罰金ということになるのだろうが、ことによると、操業の一時停止命令もありうる。


2005年10月18日

【Aust】 オーストラリア総選挙 上院のもつれ、緑の党の趨勢

 上院の集計が進んでいるが、例によって、最後の最後まで結果が分からない州が多い。(開票・集計になぜこれほど時間がかかるかは、10月10日のログを参照)。

 クインズランド州とタスマニア州で当選ほぼ確実と思われていた緑の党が、ここへ来て、危うくなってきている。これは、自由・労働・民主などの既成政党が選好票(プリファレンス)を緑の党よりもキリスト教右派の「家族一番」党(Family First Party)にまわしており、家族一番からの選好票も、緑よりは民主や労働や自由にまわっているためだ。

 ABC放送の政治評論家アントニー・グリーンの選挙分析によると、緑の党は、西オーストラリア州では議席を得る見込みだが、クインズランド州とタスマニア州で逆転敗退する可能性が高い。彼の選挙分析には定評がある。

 彼の票読み(選好票の再配分の詳細なシミュレーション)の結果を要約すると、次のようになる。(10月18日時点)

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● Antony Greenの分析(数字は各州ブロックの獲得議席数、定数は各6)

-WA 自由3 労働2 緑1 Rachel Siewert(←労働からの選好票により当選)
-QLD 自由3 国民1 労働2 (緑の Drew Hutton にもかすかな可能性)
-SA 自由3 労働3(←家族一番党からの選好票により3議席めを確保) 緑は可能性なし
-VIC 自由3 労働2 家族1 Steve Fielding 緑は可能性なし
-NSW 自国3 労働3 緑は可能性なし
-TAS 自由3 労働2 家族1 Jacquie Petrusma (←民主・労働・自由からの選好票により急浮上) 緑のChristine Milneにもかすかな可能性【分析後述】

※民主党と労働党が選考票を家族にまわしたのが痛い!
タスマニア州での集計見通しについて、アントニー・グリーンの分析は次の通り。
(ABC放送の選挙サイト http://www.abc.net.au/elections/federal/2004/results/sendTAS.htm)

If all votes are assumed to be ticket votes, then the final vacancy in Tasmania goes to Jacquie Petrusma of Family First ahead of Christine Milne from the Greens. However, the final margin of victory is only 4,300 votes. In 2001, one in five Tasmanian votes, or around 60,000 ballot papers, were cast below the line. Christine Milne is a well known political figure in the state, and it is quite likely that many below the line votes from the Labor, Liberal and Australian Democrat tickets will leak to Milne. The final result in Tasmania will now be known until all below the line votes are entered into the computer counting system, and the button is hit to distribute preferences.

(説明をおぎなって訳すと: 選好票の再配分が、すべて政党への投票(=チケット投票)にもとづいておこなわれるとすれば、上院タスマニア選挙区の最後の議席(=未確定の6つめの議席)は、家族一番党の名簿第1位ジャッキー・ペトルーズマ候補のものとなり、これまでリードしていた緑の党のクリスティーヌ・ミルン候補は落選することになる。その場合の票差は、わずかに4,300票だろう。前回2001年の上院改選では、有権者の5人に1人、票数にして約6万票は、政党にではなく候補者個人に投じられた。クリスティーヌ・ミルンはタスマニアでは知名度の高い政治家であり、労働党・自由党・民主党などの支持者が投票にあたって、選好票をミルン候補にまわすよう個人指定して投票した可能性はかなりある。したがって、この州の上院の確定議席を知るためには、これら個人指定の選好票がすべて集計入力され、電算機により選好票の再配分計算をしなければならないだろう。)

※【補足説明】 オーストラリアの選挙では、有権者は、政党に投票することも、候補者個人に投票することもできる。前者を「チケット投票」という。各政党は、自分の党の候補者が落選した場合、その票をどの党に再配分するかを優先順位つきで細かく指定している。それに対して、個人候補に投じられた票は、有権者が選好票の配分も個別に指定する(順番に番号をうつ)ことができる。上院選挙では数十名の候補が立候補しているので、これはなかなかに大変な作業(投票用紙も新聞をひろげたような大判の紙!)で、多くの有権者は簡単なチケット投票を選ぶのだが、タスマニアでは個人候補への投票を選ぶ有権者がほかの州よりも多い傾向がある。

※オーストラリアの選挙制度における「選好票」(プリファレンス、次善票配分)については、10月10日および9月27日のログを参照。