2010年8月5日

【Env/NGO】マグロシンポジウム(東京2010)


 一昨日(8/3火曜)、トンボ返りで東京でのマグロ・シンポジウムを聴いてきました。う〜ん、すごい勉強になった。水産庁の姿勢に若干の変化も感じられ、今後のフォローとプッシュが重要であることを強く意識しました。

 以下、会場でとったメモを少し整理して載せておきます。あくまで小生が「要点」と受け止めたことの羅列ですので、肝腎なことが抜け落ちているところもあるかと思います。参加されていた皆さん、どうぞ御叱正ください。

 英語での発表部分は、小生自身の聞き取りによります。(同通は聞きませんでした。どうせ大幅に省略して訳してるに違いないので。。。) もちろん小生が聞き落としたことで重要なこともあるでしょう。これまた御叱正ください!


 消費者と考える国際マグロシンポジウム ── 日本の食卓が地球環境を変える
 (WWF主催、於:東京プリンスホテル) 2010.8.3

10:00開始

(1)あいさつ:徳川恒孝さん(WWF Japan会長)

(2)緑川聡さん(漁業情報サービスセンター)「食卓から見たマグロ」
  • 日本でのマグロ1人あたり消費量は2002年頃までは増加してきたが、その後、減少傾向に転じた。ちょうどこの頃から畜養マグロの消費が伸びてきたことが指摘される。

10:35
(3)宮原正典さん(水産庁資源管理部・審議官、太平洋マグロ類保存委員会の元議長)「ワシントン条約とカツオ・マグロの資源管理」

  • 地中海は日本なんかよりはるかに昔からクロマグロを食べていた。料理文化も発達している。地中海はクロマグロの産卵場・稚魚の生育場なので、産卵後の痩せた成魚と若い小さなマグロが漁獲の中心だった。ゆえに日本市場の好みにあわず、元来は地元消費むけだった。それが畜養方式の導入で、日本市場むけの大量輸出が始まった。
  • 地中海マグロ畜養の激増について「資源管理の失敗であった」と明言。漁獲制限が後手後手にまわった(ざっと10年遅かった)ため、畜養にブレーキがかからなかった。巻き網船が獲れるだけ獲ってしまった。
  • 漁業を根本的に管理しないと、貿易だけ規制してもダメ。ワシントン条約であつかうのでは守れない。国内市場が限られている途上国の漁業者にとって、禁輸は禁漁に等しいが、欧米は国内の市場むけに相当規模の漁獲を継続できるので、保全の枠組みとしては著しく不公平(CITESでのモナコ提案への反対多数は途上国の怒り)。
  • 太平洋クロマグロは全域に分布しているが、獲るのは圧倒的に日本。だから日本が率先して資源管理の手を打っていく責任がある。国際合意が成立するまで待っていたのでは遅い。
  • 現状ではヨコワ(マグロの0歳魚)を中心にとってしまっている。大きくしてからとるように資源管理を徹底すべき。
  • 韓国は巻き網漁獲量を急増させており資源管理にも加わろうとしない問題児だが、そのマグロを買っているのは圧倒的に日本。水産庁では韓国からの輸入マグロに強制調査(魚種、漁獲水域、漁獲時期、船名などの確認)を始めた。
  • 実はいま危機に瀕しているのはカツオ。台湾・中国系の巻き網船団が急増。中華系資本だが船籍はマーシャル、バヌアツ、米国、ミクロネシアなど。船の数の規制ができないので、資源管理にとって危機。
  • WWF Japanは欧米のWWFの手先にならず、日本の立場をきちんと説明する役割も果たせ、と吠える。司会の東梅さん(WWF Japan)苦笑。

11:10-11:20 休憩

(4)山内愛子さん(WWF Japan・水産プロジェクト担当)「人の暮らしとともに、この海を守る ── WWFの考えるマグロと環境の問題」

  • 漁業者・行政・企業とのコラボで「マグロ・プロジェクト」を進めていることを説明。ききとりと対話が重要な手法。漁業実態の把握、国内マーケットの実態把握、海洋生態系に配慮した管理政策の検討、国際枠組みの確立、などなど。

 (失礼ながら、タテマエ的な説明に終始した感がある。ステークホルダーとの対話内容をぶっちゃけて紹介できる段階でもないのだろう。)

11:45
(5)Susana Sainz-Trápagaさん(WWF Mediterranean、東京大学海洋研究所で博士号)「地中海のクロマグロ ── 持続可能な漁業と消費の実現に向けて」

  • 分布と回遊、2つの産卵水域(メキシコ湾と地中海)、危機に瀕しているのは東ストック(EAFBT)。
  • フェニキア以来の伝統的漁法は定置網、これは持続可能。一本釣り漁法も小規模ながら続いている。
  • 畜養業の急増で状況ががらりと変わった。
  • TACと実際の漁獲量の乖離が10年以上続き、資源枯渇へ(産卵個体数85%減少、漁獲個体数も激減)。TAC自体の数値も高く設定されすぎた。ICCATによる管理は明らかに失敗。WWFはこれを「国際的不名誉」「漁業崩壊が現実のものとなる兆し」「資源回復まで一時停止」「産卵水域を閉鎖して保護すべき」と指摘 → モナコ提案に至ったが、ICCAT 2010で否決された。
  • 6つの主要な産卵水域が巻き網で集中的に狙われている。
  • トレーサビリティの確立が絶対要件、消費者の選択がマグロの存続に必要。

12:10
(6a)松尾五郎さん(長崎県勝本町漁協)「壱岐のマグロ一本釣りの現場から(1)」

  • 高卒後、父のあとを継いでマグロ一本釣り漁業につき、14年め。同世代はほとんど親子乗り。8年目に父逝去、以来ひとりで一本釣りで格闘。32歳。
  • 本当に魚が少なかったことを実感。マグロは数も少なくなったが、小さいマグロが本当に少なくなった。
  • 産卵期に集まる習性を利用して巻き網で取り尽くしてしまうのだから、減るのは当然。
  • 一本釣り、これからも続けたい。
  • 漁協のマグロ研究会で築地を訪れたとき、「やけ」たマグロを初めて食べて、呑み込めなかった。(やけ:釣り上げるときマグロの体温が上昇するが、それが十分下がらず、血抜きなどの処理も不十分だと、酸味が入ってしまって味が落ちる。そうした状態を「やける」「やけた」と言う。)

(6b)大久保 晃さん(同じく勝本町漁協)「壱岐のマグロ一本釣りの現場から(2)」

  • 漁師の父の背中をみて育った。中卒後、漁師に。40代。
  • 昔は、多くのマグロがジャンプする様子を毎日見ていた。もう今は見られない。
  • 勝本漁協では、漁場監視船をつくるなどして、資源管理型の漁業を試みている。しかし、次の世代に魚を残せるか心配。息子は「お父さんと一緒に海で漁をしたい」と言うが、それが実現できるか本当に心配。
  • これからの漁業がどうあるべきか、漁師で話し合い、試行錯誤している。現状のままでは、とても駄目。勝本の漁師だけでは勝本の海を守れなくなっている。

12:25- 休憩 
 MSC認証の土佐1本釣り鰹の試食後、ホテル内の中華料理屋で昼食
── 佐久間淳子さん(フリージャーナリスト)が呼び集めて、井田徹治さん(共同通信)、倉澤七生さん(IKAN)、伊沢あらたさん(アミタ持続可能経済研究所)、勝川俊雄さん(三重大)、北沢さん(フェアトレード認証組織の方)、飯沼佐代子さん(地球・人間環境フォーラム、以前PARCさかな研の世話役)、花岡和佳男さん(グリーンピース海洋プログラム担当)という錚々たる顔ぶれになる。海の素人はあたしだけ(._.;)
 できたての『味わう生物多様性 おさかなガイドブック』(佐久間さんが編集、CBD市民ネットの作業部会が制作)を見ながら、あれこれ談義。フィッシュバーガーの魚種のイラストは倉澤さんが描いたもの。
 アジやサンマの資源状況についての勝川さんの説明も聞けた。要点を突いていて分かりやすい。

勝川さんのツイート @katukawa公式サイト  ── 超おすすめ!)

13:35 再開

(7)濱端廣文さん(大間漁協・組合長)「大間のマグロ一本釣りの現場から」

  • 青函トンネルの工事の泥水で海峡の水が汚れた数年間はマグロが一本もあがらなかった。
  • 巻き網は、エサになる小さな魚も一網打尽で獲ってしまい、お金にならない獲物は捨ててしまう。これでは、未来はない。
  • 沿岸漁業は厳しい規制におかれているのに、外洋での巻き網船は取り放題。同じ船団があちこち動いて、マグロを巻いて、イカ巻いて、ぜんぜん規制されない。それでいいのか?
  • 一本釣り漁師は、マグロ1本あげたら急いで港に戻って、血抜きして氷につめて、よい商品にするため心を砕く。そういった漁業が続けられるようにしてほしい。

(8)Jose Inglesさん(Coral Tirangle Program, WWF)「コーラルトライアングルプログラム(CT) ── 持続可能なマグロ漁業の推進」

  • CTは世界の海のなかで最も生物多様性の高い水域。サンゴの種数の76%が集中。
  • CTでの漁業の大半は生存漁業。商業漁業ではマグロとエビ類が中心。マグロ漁獲では世界随一の水域であり、また産卵水域でもある。隣接する豪州北部沿岸はミナミマグロの産卵水域。
  • 養殖業も急激に伸びているが、マングローブ林の破壊をともなう。
  • 生存漁業も商業漁業も養殖業も同じ海洋環境に依存している。寿司と刺身を持続可能性な方向に変えることで、商業漁業だけを守るのではない。漁業を守ることは地域の人々を守ること。
  • CTの重点 これまでにない手法の確立、私企業への積極的参加要請、6つの関係国(フィリピン、インドネシア、東チモール、マレーシア、パプアニューギニア、ソロモン諸島)が協議に参加。
  • 海洋保護区(MPA)の設定もめざしている。Phillippine Sulawesiを保護海域としてゾーニングしたい。
  • CT からの日本のマグロ輸入 インドネシア、フィリピンを中心に7万トン規模*90年代後半は12万トン近かったが急激に減少している。
  • IUU(違法・無報告・無秩序な生産)に由来しない流通を確立する必要 ── 罐詰製造業における責任ある原料調達、トレーサビリティ(優良な取り組みをデザインしていく必要、小売・貿易企業との連携が必須、エコラベル商品の促進)
  • 若いクロマグロ(10-25cmサイズ)は同じサイズのカツオと一緒の群れになって回遊する。カツオ漁でマグロの若い魚を一緒にとってしまうと、大きなマグロに育たない。カツオ漁を規制すべきかどうか対応が難しい。【← ここ、細川の聞き取り間違いかもしれない。要チェック!】
  • 途上国の場合、漁業振興で経済成長をはかるのと資源枯渇を予防するために管理するのジレンマに悩む。


14:20-14:40 休憩

(9)質疑応答およびパネルディスカッション: (1)-(8)の話し手全員と、Mark Powellさん (WWF International)、司会進行=東梅貞義さん(WWF Japan)

  • 会場からの書面質問多数 ── 漁業管理についての質問や提言が多い。消費者にきちんと知ってもらうべき内容・誰がどう知らせるかについての質問も多い。

  • 宮原さん(水産庁審議官) 水産物はまだまだ表示がいい加減。回転寿司屋で「大間のマグロはいりました!」とか書いてあったりするが、入るわけがない。寿司屋でもクロマグロでないマグロを「本マグロ」と言ったりしている。消費者が「ほんとですか?」と突っ込みをいれることも大切だ。
  • 山内さん(WWF) 漁師が魚をとって次世代まで生活がなりたっていくということが大切、このことが sustainability の議論の中で漏れ落ち気味。
  • 濱端さん(大間漁協) 大間のマグロを香港の業者が競り落としたことについて ── 一番の高値ということ自体が宣伝になる(ニュースで大きく扱われる)ので、宣伝費を出すつもりで買っているようだ、と聞いた。
  • Mark さん(WWF) メキシコ湾の原油流出事故について、現状ではまだ未知の部分が多いが、西大西洋マグロの産卵水域なので今後どのようなダメージが出てくるか長期間の注意が必要。とくに事故対応で大量にまかれた石油分解剤の影響が懸念される(マグロだけではなく、海のすべての生物に対して)。
  • 宮原さん(水産庁審議官) [ ICCATの「失われた十年」は避けられなかったのか?という質問に対して ] 地中海マグロの漁業の主体はEUの巻き網船団。これまでのTACでさえ守れないできたのに、TACをさらに厳しくして守れるわけがないので意味がない、とEUの政策担当者は言う。漁業者が自分の問題として捉えなかったことが問題。ようやく反省は出てきたが、遅すぎた。これからは徹底した資源管理が実施されるだろうし、日本の輸入規制を非常に厳しくし始めている。3千トン以上をとめて、検査。合法と確認されたものから輸入許可しているが、今も1千トン近く滞留している(EUのTACは7千トン)。うち700トンか800トンが輸入差し止めになる可能性があるが、その場合、同量の魚を畜養生け簀から解放する(=違法に漁獲してしまった部分を海に戻す)ことを要求している。
  • Susanaさん(WWF) 日本とEUは共同責任。両端からの努力が必須。イタリアは休漁(モラトリアム)を宣言したし、生け簀の解体も始めた。フランスはCITES提案を支持したし、TACの引き下げの必要性も理解している。しかし規制を厳しくしても漁業者がそれを守らないのでは意味がないという観点から別の方策も探っている。問題はスペインで、わずか6隻の巨大な巻き網船団がTACを3日足らずで獲ってしまう。なかなか効果的な規制ができていない。産卵水域での集中漁獲はなんとしても規制しないとならない。
  • 宮原さん(水産庁) EUはCITESで附属書 I 提案に賛成した以上、次年度のICCAT(Paris)でそこから後退する態度はとれないだろう。少なくとも科学委員会が提示する資源回復確率60%レベルのTACを受け入れるだろうし、禁漁についての議論も避けられないだろう。
  • Susanaさん(WWF) 資源回復確率60%を受け入れるということは崩壊確率40%ということだから、そのレベルで満足すべきではない。回復確率80%水準を求める議論をすべきだ。
  • 宮原さん(水産庁) 畜養生け簀に入れた魚が100尾なのに出荷のとき110尾と記載された証明書がついてきたりする。こういうのは断固止める。
  • 山内さん(WWF) これまでは「証明書があるから」と買っていた日本の企業に対しては明確なメッセージになっている。しかし、証明書発行以前の段階での管理や規制がより重要。
  • Susanaさん(WWF) 畜養業者はovercatchを隠そうと思えばいくらでも隠せる。書類が整っていてもありえない数字が載っていたりする。数字の中身までチェックしていかないとダメ。
  • Susanaさん(WWF) 地中海でのマグロ食文化は古い伝統だが、今の畜養はそれとはまったく関係のない異なる産業。もっぱら寿司むけの産業だ。
  • 宮原さん(水産庁) 日本近海でのマグロ畜養について、畜養場の登録制度をスタートさせた。沿岸漁業の引き網から供給されるものだけ(巻き網由来のものを認めない)。必要があれば、今後、参入規制も。 ── 巻き網業者にしてみても畜養原料を生きて供給しなければならない操業は、網を1回しか巻けないのでコストがかかる。大手で参入を検討しているところもあるが、たぶん見送ることになるのではないか。
  • 松尾さん(勝本漁協) 網ごと移動している巻き網船を見たことがある。巻き網から畜養への原料供給は
  • フロアから、佐々木敦司さん(新宇部漁協) 四国では沿岸巻き網船から畜養生け簀に稚魚が供給されている。
  • 宮原さん(水産庁) 小さい規模ではあるだろうが、資源への影響が大きい大規模操業の場合はコストに引き合わないし、水産庁としてもやめるように指導している。養殖であれ市場に出すのであれ、小さな魚をとってしまうことを規制していくことが肝腎。マグロ管理については、関係者が情報を共有することがとても重要。オープンにやることで、不合理なことはやはり止めようという方向へ動いていく。水産庁の「お上の一声」で解決するとは考えていない。問題となっている韓国からの輸入についても情報を共有していくことでブレーキをかけていきたい。
  • 濱端さん(大間漁協) 青森の52の組合で話し合って、漁協の適正な出荷伝票がないものを市場は受け取ってはいけない、という方式で合意しつつある。これまでは仲買いが持ち込むものは何でも市場がひきとった。それではいかん。きちんとして次の世代にひきつぎたい。
  • フロアから、佐々木さん(新宇部漁協) 大間のマグロが大間前浜なのか(太平洋マグロ)、竜飛でとったのか(日本海マグロ)か区別してくれないか。築地では分からない。
  • 濱端さん(大間漁協) マグロは広域で回遊しているので、とった場所で太平洋のマグロなのか日本海のマグロなのかの区別はつかない。それはマグロしか知らない(笑)。
  • 宮原さん(水産庁) 日本の巻き網船はここ10年でかなり減っている。マグロでいえば、壱岐が多いが、漁獲の多いのは本当に限られた船。その人たちがどうするかが重要。ITQのような技術的方式もわかるが、たくさんとっている人がたくさん減らす、ということが基本にあるべきだ。少ししか獲っていない船を規制で苦しめてはよくない。
  • 松尾さん(勝本漁協) そういうのを一日も早く実現してほしい。
  • 宮原さん(水産庁) 「海洋保護区」というと新しい発想に聞こえるが、日本では「禁漁区」の設定を昔からやっていた。漁業者がみずから禁じるというのが日本式のやり方。人間活動を一切しない、というのではない。時期的な配慮も加味して臨機応変に設定していく必要あり(そういう意味では、海洋保護区ではなくて日本的な禁漁区)。日本のEEZは世界で6番目に大きいというけれど、魚がたくさんとれる水域はそう多くない。そこに大きい船も小さい船も集中して争っているのが実態。
  • 濱端さん(大間漁協) 7月・8月禁漁(産卵期)をぜひ実現してほしい。
  • 大久保さん(勝本漁協) 産卵期に巻き網してしまったら乱獲としか言いようがない。
  • Markさん(WWF) 目的を共有することが大切。「Seafood for ever」という理念を共有したい。今日の需要と将来の需要とのバランスを意識しないといけない。漁獲方法も将来にどのような影響を与えるかという基準から見直す。明確なselective catchを。それをふまえたトレーサビリティを構築していく。太平洋マグロについては、EU諸国がたしかに過剰な漁獲を後押ししてきてしまった。消費国日本だけを非難するのはフェアではない。日本のビジネスと消費者が、先に述べた目的を共有して、EUのステークホルダーと話し合うことも必要。
  • Markさん(WWF) 日本ですべきことは欧米の政策のコピーではない。その国の歴史と事情にあわせた資源管理の方法をとっていくべきだろう。
  • フロアから、勝川俊雄さん(三重大学 生物資源学部) 消費者に声をあげろと言っても、必要な情報が知らされていない。日本でとれるマグロの90%までもが0歳か1歳という事実があるが、それをこの会場で知っていた方は?(...二百数十人ほどの参加者のうち、ぱらぱらと数人だけが手をあげる)。このように、重要な情報が広まっていない。より多くの人に知ってもらうという点で、WWFの今後の取り組みに期待する。今日のシンポでは資源(の現状)の話が抜けていたのが残念。会場にはそういう話ができる専門家が何人も来ている。そういった解説もまじえてシンポを構成してもらいたかった。巻き網の(日本での)漁獲量は急速に減っている。わずか5年で7%になっている(日本海の巻き網)。
  • フロアから、味の素の社員の方(山内さんの発表資料にある「大手食品企業C」) 企業の取り組みは大事だが、疑いと不信をもって見られることもあるし。内実がともなわない段階で広報して誤解されては、社会的にもマイナスであるから、慎重に進めたい。昨年から始めた遠洋水研とのカツオ資源調査は20年くらい続けていきたいと思っている。
  • 宮原さん(水産庁) 「マグロやトロにそんなに執着していいんですか?」ということは繰り返し言いたい。日本人がこんなにトロを食べるなんて、ここ10年ほどの現象。スーパマーケットや回転寿司で1000円以下でトロがあるなんて状況が異常であるということ。おいしい魚や貝はいっぱいあるのだから、いろんなものを粋に食べてほしいし、そのほうが漁業者も助かる。
  • Joseさん(WWF) 今これを食べる/食べないという選択が未来の子どもたちにとってどのような選択になるかということを、いつも考えたい。
  • Markさん(WWF) サステナビリティとはクォリティであり、リライアビリティである。シーフードにこだわりのあることで知られている日本の人々こそが、この意味でのサステナビリティを実践する能力があるはずだ。
  • 山内さん(WWF) 日本の人々にどういうメッセージを出したら、海の生物を守る方向に進んでいくのか、いろいろ悩んできた。昨日のWWF声明では、大西洋クロマグロについて厳しい現状認識と提案を述べているが、そういう表現で問題が進展するのかどうかということも関係者でいろいろな考え方があった。今日のシンポは半年かけて準備してきたが、まだまだ手探りの部分が多い。巻き網は問題だが、巻き網がなくなれば解決するほど問題は単純ではない。私たちの消費は多くのシステムに支えられていて、それを全体として見て行かないとならない。
  • 松尾さん(勝本漁協) 自分にとっては難しい話が多かったが、来てよかった。すべての漁業者に一本釣りに変えてくれとは言えないが、一本釣りが一番いいやり方だということは分かって欲しい。
  • 大久保さん 無駄な漁獲をへらして資源管理をしていこうという気持ちになった。
  • 濱端さん(大間漁協) 農業は日本の母、漁業は日本の父、そう言えるような政策を(農水省に)ぜひお願いしたい。
  • 緑川さん(漁業情報サービスセンター) 季節のものを食べるということの大切さを見直したい。マグロだって季節に応じて美味しい部位も種類も違う。

16:48 終了(予定より約20分延長) 司会の東梅さん(WWF)のそつのない采配がお見事。各発言者の発言のキモを簡潔に要約しながら次の発言へとつなげておられました。


 松山から参加していた環境社会学会の野崎賢也さん(愛媛大学)が声をかけてくださる。シェフむけのシーフードを考える会のようなイベントを企画しているとのこと。第1回は9月に東京で。

 Susanaさんに声をかけ、仏伊と西の状況の違いについて質問。やはり政府の姿勢の違いが大きい。スペインの巻き網船は興味深いことに自国資本だそうだ。猛烈にGreenwashをしかけている企業だという。

 佐久間淳子さんから「おさかなガイドブック」を20冊ほど貰い受け、会場をあとにする。残念ながら、今日はすぐ京都に戻らないといけないので、懇親会はパス。

以上、会場と帰りの新幹線の中で MacBook に打ち込んだメモを若干整えたものです。最後の(9)パネルディスカッションの後半は、やや集中力が落ちて、発言を全部は拾えていません。たとえば、Joseさんの発言が2つほど抜けてます。きっと大切なことを言われたのだろうと思いますが、ごめん、聴き取れなかった。


★★★ ── 繰り返しますが、この記録メモはあくまで私的ノートですので、いずれ主催者(WWF)さんがきちんと用意されるであろう正式な記録もどうぞ御参照ください。い合わせ → communi@wwf.or.jp )


●海洋資源の状況と海洋保護区の設定の必要性については、2008年10月の国際海洋環境シンポジウムの記録もぜひ見てね!

●アジア太平洋資料センター(PARC)の「おさかなビデオ」三部作  もぜひ見てね=!  




2010年8月4日

【Indig/Env】生物多様性と先住民族 (12)


『先住民族の10年News』166号(2010年7月10日刊行)に掲載した拙稿を掲載します(若干、字句を手直ししました)。

連載「生物多様性と先住民族」
第12回 ABSの正当性と公平性への懸念

著者: 細川弘明
掲載誌目次 → 年号順記事分類別

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 これまでの連載を通じて、
(1)生物多様性条約COP10(名古屋会議)での主要な争点のひとつがABS(生物資源へのアクセスの保障と開発利益の適正な分配)であること; そして、
(2)このABSの考え方それ自体が先住民族の立場からみると相当に問題を多くはらんだものであること
について述べてきた。

 ABSの問題点は多々あるが、特に先住民族の法的・社会的権利が十分に保障されていない国では、次のような点が先住民族にとって典型的なリスクとなる。

  • アクセスが前提となっていること(アクセス拒否権のような概念を先進国側が「拒否」していること;先住民族が拒否しても地元政府が合意すればABS交渉は進むこと)
  • 経済利益の評価算出方法とその適正な配分率についての合意を得るのが相当困難であること(COP10の成否をこの点で判断しようとする人は少なくないだろう。)
  • ABSの運用を評価し、不公正や不適法など問題がある場合にそれを解決したり補償したりする仕組みが確立していないこと
  • そもそも、先住民族にとって何が「利益」であるかという根本問題が考慮されていないこと

 最後の点には、ふたつの側面があり、第1に、アクセスを容認することで何がどの程度失われるかが必ずしも事前に正確に予測できるわけではない、という生物資源開発についてまわる予測困難性(開発する側にとってもバクチであるが、現地サイドでの影響評価もとても難しい)がまずある。

 第2に、先住民族や地域に根ざす小共同体が生物多様性(生態系、生物資源)から従来得てきた利益(生業経済と文化の存続基盤としてのメリット)と、部分的な開発を容認することで分配を受ける経済的報酬という新しい利益を、あたかも交換可能・比較衡量可能とみなす考え方がABS議論の前提となっている。実際、先住民族集団のなかでも、そうした議論の土俵に積極的に乗ろうとする立場の人たちもいるわけであるが、そうではない(両者は交換できない)とする立場の先住民族集団も当然ある。


■先住権認定が開発協定を促進

 ABSという発想が、一見、問題解決のための正当な枠組みのようでありながら、必ずしもそうとは言えないと筆者が考えるのは、そこに先住民族の土地・水域権の保障枠組みの場合と同様の「罠」が潜んでいるのではないかと懸念するからでもある。

 この原稿を書いている最中(2010年7月2日)、オーストラリアで同国の「先住権原法」制定以来最大の面積をあつかった訴訟が先住民族側の勝訴で決着したとのニュースが飛び込んできた。クインズランド州北部のヨーク岬とパプアニューギニアのあいだのトレス海峡の海の所有権が争われた先住権原確認請求事件【註1】である。連邦裁判所のケアンズ支部で9年間にわたり審理されてきた重要なケースで、対象海域は4万4000km2(北海道の面積の半分以上)に及ぶ。しかも海底・水中・砂州・環礁などすべてが包含される、かつてない規模の先住権審判である(原告はトレス海峡諸島民の自治組織であるTSRA【註2】)。

 連邦裁は、先住民族であるトレス海峡諸島民こそがこの海域の伝統的領有権を持つことを認定した。これは、海上・海中・海底および地下を問わずこの海域を利用する事業・産業・開発探査等は今後必ず領有権者の代表組織たるTSRAと交渉しなければならないという意味である。しかし、裁判所がそのような判断を下したのは、原告である先住民族側が「排他的権利」を主張しなかったからであると考えられる。つまり、今回の決定で、非先住民族による漁業操業が排除されるわけではないし、ニューギニア島と豪州をつなぐ天然ガスパイプライン計画が頓挫するわけでもない。利益分配(BS)の交渉のテーブルに先住民族を必ず参加させなさい、ということである(具体的には、原告からの最終意見書を受けて7月末頃に最終判決が下される)。

 実際のところ、トレス海峡諸島民のなかには「排他的領有権」(たとえば、先住民族以外の漁業者の操業を任意に拒絶しうる強い権利)を主張する人たちもいるのだが、それを前面に出して争ったのでは裁判で勝てる見込みがなく、TSRAは最初からBSを落としどころとして交渉を重ねてきた。オーストラリアにおける先住権の法的保障は、現時点でおそらく世界でもっとも先進的かつ精緻な枠組みであるが、それでも先住民族側は基本的には妥協を強いられている。その合意内容が妥当なものであるかどうかは、分配される経済利益の多寡で測定されることになるが、その具体的数字や条件は、個々の開発案件ごとに非公開で調整され、妥結額も公開されるとは限らない。

 誤解のないよう書いておくが、筆者は先住民族が排他的権利としての先住権・土地権・水域権などを絶対獲得すべきであると主張しているのではない。しかし、排他的権利を放棄することによってしか、利益分配の枠組みが妥結しないという現実は、先住民族にとって本来の意味でフェアなものではないだろうと考える。


■合意の主体は誰か?

 以上のような先住権の保障枠組みにおいて見られる「選択の余地の乏しい妥協」とも呼ぶべき構図をふまえて、話を生物多様性条約に戻すと、ABSという枠組みは「妥協の基本枠組み」として相応の現実性をそなえていることは確かであるが、透明性や交渉過程における対等性(特に先住民族側が言語上や法律上のハンデを負っている場合)において多くの懸念が残る。

 生物多様性条約のこれまでのCOPや準備会合で、ABSは先進国と途上国の利害対立の最前線であった。とりわけ際だった争点として、途上国(生物資源提供国)の求めるように「法的拘束力」を導入するのか、それとも先進国(生物資源利用国)側が推し進める国際ガイドラインと国内法措置による運用とで順応的に管理していくのか、という点が注目されがちである。

 しかし、途上国のなかで地理的・政治的に周辺化された存在である先住民族や地域共同体にとって、交渉への参画の機会、事前情報の提供といったことが、どのように保障されるのかが重要である。これらは国際条約交渉のメインストリームからすると、一見些末な枝葉のように思われがちだが、当事者にとっては死活問題である。

 たとえば、個々のABS案件の交渉の前提となるのは「事前の情報にもとづく同意」(PIC)であるが、途上国政府と先住民族諸集団間の関係が必ずしも円滑で平和的でない状況にあっては「同意の主体は誰か?」という問いが深刻なものとなる。

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【註1】Torres Strait Regional Sea Claim 2001

【註2】Torres Strait Regional Authority(オーストラリア連邦の先住権原法で認定された先住民族代表組織のひとつで、トレス海峡諸島および海域の自治と社会福祉、開発規制、環境保全、補助金配分などの実務機関としての性格も強い。)トレス海峡諸島民は、民族的には豪州アボリジニー系・パプア系・オースロネシア系が混合した多様な集団だが、豪州本土のアボリジニーとならんでオーストラリアの先住民族のひとつとしての政治的地位を認められている。


※なお、掲載誌のハードコピー(PDFファイル)は、こちらからダウンロードできます。