2011年10月14日

【Nuke/Egy】べーベル・ヘーンさん「脱原発と緑のアジェンダ」を語る


於:京都精華大学 対峰館 T-109教室 18:00-20:00(20:40まで延長)

ドイツ Die Grünen(90連合/緑の党)副代表「脱原発と緑のアジェンダを語る」

前半は会場からツイート連投し(いわゆる tsudaり)ました。
後半、Macがバッテリー切れしちまいまして、途切れ、ごめんなさいでした。

誤字修正や内容補足を加えて、全体の記録メモを以下、公開いたします。(文責・細川)

 IWJ 京都チャンネル1 によるUst 中継もありました。アーカイブこちら(約2時間40分、全録画)

【10月19日追記: 当初、ヘーンさんを「副党首」と記していましたが、緑の党の組織の仕組みからすると適切な訳語ではないとのご指摘を受けました。ドイツ連邦議会の会派として2名の代表と4名の副代表を置いているとのことで、必ずしも党首・副党首といった位置づけではないようです。ぴったりの日本語がありませんが、「副代表」という表記にあらためました。】

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ドイツ緑の党「脱原発と緑のアジェンダ」を語る 



べーベル・ヘーン(Bärbel Höhn)さん、会場にいま到着(18:12)。若狭の原発を見て戻ってこられたところ。会場には学生よりも、学外からの来聴者が多い。

関係者もふくめ、50人ちょい、かなぁ。。。

司会の中尾ハジメさんが、ヘーンさんを紹介。緑の党の政治に対する考えは、僕らの想像を絶するくらいのものがある。「緑の党は政党に反対する党だ」ともヘーンさんはおっしゃっている。ぜひ考え方を聴きたい。通訳は高田知行さん(ドイツ在住30年)。

高田さんひとこと: 僕の仕事は、日本の伝統食品、醤油、味噌などのまともなのをドイツやヨーロッパで広げること。日本の原発事故でこれらの食品も危機にさらされているので、今回とりくんでいる。ヘーンさんというすごい肝っ玉母さん(誰もが知ってる大物政治家!)と出会ってお手伝いできて嬉しい。


ヘーンさん: さきほど「ミセス・グリーン」と紹介していただき、光栄。ドイツの工業地帯に暮らしていて、息子がぜんそくになった。大気汚染をなくしたいとの思いから、市民運動に参加した。

ただでさえ大気汚染がひどいところに廃棄物処理場が来るというので反対運動をした。それを皮切りに、市会議員、州議会議員、州の農業大臣、環境大臣などをつとめ、2005年からは連邦議会で環境や農業の問題にとりくんでいる。

議員・大臣になり、自分がこわしたかったものをこわすこともでき、やりがいがある。福島を訪れ、心に残ったこと、皆さんにお伝えしたいことが幾つかある。飯舘村の菅野村長の言葉「原発事故は一自治体で対応できるレベルのことでない。村人にとって何がよいか、とても解決ができない問題。」

飯舘村の意識としては、原発は遠くにある、というものだった。防災の準備もなかった。それが自分たちの運命を変えることになった。地域の問題というよりは日本全国の問題となる。コストも最終的には全国民に押しつけられるだろう。

福島市でもホットスポットがたくさん発生。原発から福島市の距離は、今日わたしが見てきた若狭の原発から京都市までの距離とあまり変わらない。若狭の原発で事故がおこれば、皆さんの町が福島市と同じ状況に投げ込まれる。

東京での講演会で、事故がおきて日本では原発をめぐる政策があまり変わらない。しかしドイツでは急展開があった。その違いは何なのか、という質問を受けた。それはなぜなのか、お話ししたい。

ドイツではまず老朽化した8基とめて、その他の原発も順次止めていくことになっていた。スイスは2034年までに原発全廃することを決めた。イタリアも国民投票で原発を使わないことを決めた。実は福島事故前から、世界的には、原発をなくす方向に動き始めていた。

3つのテーマをお話ししたい。1)ドイツでは脱原発の政策がなぜ支持を集めるようになったのか 2)脱原発後のドイツのエネルギー政策、3)原子力のない社会のビジョンとは何だろうか。

ドイツ統一の象徴であるブランデンブルク門での脱原発の大規模デモの写真。緑の旗(緑の党)が目立つ。福島事故の1年前におこなわれたアクションの写真。2つの原発のあいだを人間の鎖でつなぐというアクション。もう1枚写真、稼働中の原発の危険を訴える大規模デモ。

核のごみの輸送(フランス → 独ゴアレーベン)への反対、3代にわたる闘い。老人達も線路に鎖で自分の体をつないで抵抗するという、とても激しい闘いだった。最終処理場では100万年のあいだ安全に核のごみを管理しないといけない。ありえない話。2万世代の人間が責任を負うという非合理。

100万年前はわたしたちは類人猿だった。それだけの長い未来に核のごみのリスクを伝えていくようなことできない。バベルの塔ですら3千年前のこと。塔がどこにあったかすら今ではわからない。100万年先の人たちに場所を伝えることすらできないだろう。

「脱原発」を決めることなく最終処分場を決めることはない、というのがドイツでの議論の大原則。そうでなければ、最終処理場に際限なく核のごみが運び込まれることになってしまう。飛行機は飛び立ったが着陸する滑走路がどこにもないというのが原子力の現状。

市民の運動はデモだけではない。ひとりでも脱原発をしていこう、という発想があった。原発を運転する大きな電力会社から、自然エネルギー中心に運転する小さな発電会社に契約を変えていくというのも大切な運動のかたちだった。独立電力業者のポスターなどをいろいろ紹介。

福島の事故後にドイツでおこなわれたバーデン・ヴェルテンブルク州の総選挙の票の動き。緑の党が12.5%伸びて、他の政党はみな支持を減らした。ドイツ緑の党(Die Grünen)の理念は、環境保護、女性の解放、平和運動、反核・脱原発。

既成の党のかたちをとらない党でありたいと私たちは語り続けてきた。当初の支持者は若い世代。別の選択肢を提供するということに大きな意味があった。(ドイツでは働いてから大学に行く人も多いので、学生の年齢は日本の学生よりもずっと高いです。)

既存の政党は経済活動とリンクしているが、国民の幸せを大事にしているとは言えなかった。緑の党は、地球の制限のなかで、持続的な幸せを追求。「2つめの地球はどこにもない」というスローガン。

さまざまな運動や社会的な潮流が緑の運動に流れ込んで、議論を重ねた。環境・社会的公平・平和・草の根民主主義という4つの柱がその過程で固まってきた。1980年に結党、83年に初めて連邦議会に議席(5%条項を突破)。

85年、ヘッセン州政府の環境大臣に緑の党のフィッシャー代表が就任。ジーンズにスニーカーで登院し、物議をかもした。ドイツ統一後、一時、議席を失ったが、その後、連邦政府の連立に参加。

はじめの頃、緑の連中は頭がおかしい、とも言われてきた。それが何故、支持を集めるようになったのか。脱原発を唱えるだけでなく、別の選択肢があることをはっきり示したことが決め手だった。再生エネルギー法(EEG)を立案し、実際に自然エネルギーの普及に貢献してきたことが理解された。

1999年(緑がSPDとの連立政権に参加した年)には、まだ原子力は発電の30.6%を占めていた。今は17%に落ちて、自然エネルギーが20%になった。2011年前半に逆転した。

しかし、これはあくまで中間点にすぎない。2023年にすべての原発を廃炉にし、電力の4割を再生エネルギーでまかなう。これは、他の政党もほぼ同様のビジョンを持つに至った。保守的な党でも、自然エネルギーで3割と見込んでいる。

洋上風力の伸びが大きい。光発電も2004年以降、一気にのびた。とくに2009-2010の急伸が大きい。再生エネルギーの活用も大事だが、それよりさらに重要なのが省エネ(効率化)。トップランナーの考え方とスマートグリッドが鍵。2020年までに20%効率化をめざす。

原発の無い社会のビジョンでは、エネルギー構造がまったく変わる。これまでドイツでは3つの巨大な電力事業者が寡占している状態。彼らが原発を進めてきた。政治に大きな圧力をかけ、また大きな利益を追求してきた。電力価格も彼らの都合で高い方向に持って行かれた。

電力会社の利益総額の推移をグラフで見る。2002から2007年で利益が3倍になっている。彼らが価格を自由にできるからこそ、こんな事態になった。2008年にはE-on社(大手のひとつ)が投機で大損したので利益が落ち込んだ。

巨大資本・巨大設備から、小さな地域にねざした設備への移行が脱原発のかなめ。再生エネルギー法により、自然エネが利益を生む仕組みができた。市民の手に発電手段が取り戻された。巨大会社はとてつもなく高い利益率を求める。電力大手は40%もの粗利率をあげていた。独占企業ならでは。

市民が出資する地域エネルギーでは、そんな巨大な利益率を求める必要はない。再生エネルギー法が提供する3.5%程度の利率で十分。再生エネルギーへの転換で、ひとりあたりのCO2排出量の十分な削減ができる。原発無しで低炭素社会にむかうことができる。

ドイツ人がみな理想主義者だから脱原発にむかっているのではない。人々にとっての利益もあることが理解されたからこそ支持された。再生エネルギー事業による雇用の伸びが明白になったことも重要。原発分野では雇用はどれくらいだと思いますか? 全ドイツの原発雇用は約3万人。自然エネで40万人。

グリーン・エコノミーの分野での経済成長が大きいということが明らかになったことも緑支持の大きな要因。水の有効利用、リサイクル、グリーン技術などが高い成長率をあげている。緑の党だけでなく、経済学者や企業コンサルの人たちもこの成長率に注目している。

エネルギー転換、グリーン技術への転換が、自動車産業よりも重要な分野となる。リーマンショック以降、ドイツ経済がなんとか生き延びてきたのは、グリーン技術の分野での伸びが大きい。

金融危機、経済問題、気候変動問題、原発のリスク ── これらは実は同じひとつの根っこから来ている。経済と環境は対立するものでなく、調和によるグリーン・ニューディールが求められている。金融危機と環境危機を同じ方法で克服するのが私たちの時代の挑戦だ。

電力会社は3%の利益率では満足しない。どん欲な利益追求型の構造を必要としている。投機にも手を染める。損失は国民が補填するもの、と考えている。これは東京電力もまったく同じ姿勢。利益はすべて自分たちのもの、事故の賠償は国(国民)に肩代わりさせる。利益を個人化、損失を社会化という構造。

政治の役割は、ガードレールをきちっと立てること。国民の安全と幸福が成り立つような経済のかたちにむけて規制をかけていくこと。金融については投機が無税で実行可能という状態を止めないといけない。投機に税がかからないのは絶対おかしい。トービン税などの導入が必要。

世界で次々におこる金融危機は各国国民で支えられる事態ではない。どん欲な利益を求める少数の人たちによって起こされている事態。国際的な平等と公正を確保しないといけない。途上国で飢餓がおこる構造を解消しないといけない。


以上、べーべル・ヘーンさんの講演。
7分休憩ののち、質疑応答に入ります。


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司会(中尾ハジメさん): 再開します。あまりにも日本社会の動き方と違いすぎて戸惑うところも多かったと思うが、何か切り口をみつけて、どうぞ皆さん質問してください。

【★当日は、使っていたMacBookProがここでバッテリー切れ、中継途絶えてしまいました。ごめんなさい。】

フロア男性(ハシムラさん?)Q: チェルノブイリ事故があったし、IAEAもウィーンに本部がある。ヨーロッパではだいぶ前から反原発の運動があったのでは? EU各国政府やIAEAは各国の原発のリスクに何らかのガイドラインを示すなどという対応はとってきたのか?

ヘーンさんA: ドイツで脱原発の運動を進めるのには大変な苦労があった。ドイツでも原子力産業、原子力ロビーは非常に強力な存在。EU全体でみてもそう。ウィーンに本拠をおくIAEAも原子力推進が前提なので、彼らが「脱原発」を考えることはありえない。既存の経済と政治のかたちを維持促進していこうということにしかならない。しかし、脱原発は国民の思い。私たちには理想と想像力があった。向こう側には強力な資本がある。そのあいだの闘いです。

和田喜彦さん(同志社大)Q: ドイツでは原発倫理委員会の人選で産業界の息のかかった人は入らなかった。日本では調査会などに電力会社や産業界の利権をしょった人が多く入り込む。この違いはどこから?

ヘーンさんA: ドイツでは突然「脱原発」が決まったわけではない。前の連立政権(SPD+緑)で脱原発の方向性はいったん決まっていた。それが2009年の政権交代(SPD→CDU)で見直され、2010年に「稼働延長」が決定された。ところが国民の反撥が非常に大きかったところへ、福島事故。311はドイツにとっても本当に衝撃だった。日本という技術先進国で起きたことをドイツでは非常に深刻に受け止めた。メルケルは、このままでは政権を失う、と判断。ふたたび脱原発へと舵を切った。この方向転換に正統性を与えるために倫理委員会を構成した、という経緯がある。委員会のトップには、保守党(CDU)の重鎮(ペッパー元環境大臣)を据えた。与党の内外に説得力をもつような委員会にせざるをえなかった。

小林圭二さんQ: 雇用の問題は政策を変えるときの大きな要因になっている。再生エネルギーの雇用力には驚いた。40万人という、原発の10倍以上の雇用力、その中身は? 再生エネルギーはメンテフリーなので雇用力は小さいと思っていたのだが。

ヘーンさんA: ソーラーパネルの場合、市町村の家庭の屋根につけていくので、屋根で工事をする人たちが必要。地元の職人の小さな職場、手工業を支えることになる。
風力でも太陽光でもバイオマスでも、新しい設備産業・部品産業が輸出市場を手に入れたのが大きい(再生エネルギー設備の海外への輸出により、仕事が増えている、という意味)。風力発電設備ではドイツのメーカーは40%を達成している【★収益の4割が輸出によるもの、という意味なのか、世界シェアの4割を占めている、という意味なのか、不明】。
農業地帯では農家の雇用を確保するという効果も生まれている。農場に風車などを設置して電力を売ることができるようになったので、再生エネルギーの副収入で農業を続けることができる。風車1基たてれば土地代として年間8000ユーロ(100万前後)、5基たてれば400万から500万の定期収入になる。酪農ではミルク価格の変動が大きいが、売電の副次収入があれば酪農を続けることができる。農家の雇用を守るという効果がはっきり生まれている。
巨大施設に巨大な資本を初期投資する原発は長期的な雇用に結びつきにくいが、再生エネルギーでは中小の新しい設備が次々に設置されていくので、鉄鋼産業もアルミ産業も、ネジなどを作っている加工産業も長期的にうるおう。少ない資本で高い費用対効果を生んでいる。

ヤスペル(?)さん(ドイツラジオの記者)Q: 私の質問はここにいる学生の皆さんへの質問。学生の皆さんはヘーンさんに何を訊きたいですか?

女子学生(マンガ学部)Q: 風刺漫画の勉強をしています。2つ質問したい。1)ドイツの原発で働いているのはどういう人たちですか? 2)日本は事故で惨めなことになってしまったんですがドイツの人は何をしてくれますか?

ヘーンさんA1: ドイツでも原発は決して良い職場ではない。派遣労働で次々と人を入れ替えていく。ドイツの労働者は比較的よく法の保護を受けていると言えるけれど、派遣労働者は一般労働者ほど守られていない。特に原発は被曝の問題があるので、人を次々と替えていく。

ヘーンさんA2: 緑の政治の基本は、何か悪いことが起きないように予防する、先取りして手をうっていくこと。事故が起きないために何をするか、ということが決定的に重要。起きてからどうする、という発想で考えていない。だから、あなたの2つめの質問は私たちにとって、とても難しい。
福島はとても厳しい状況だが、事故時の風向きで放射能の大半が海方向に流れたのがまだしも幸運だった。そうでなければ汚染はもっとひどいことになった。次の事故のとき、このような幸運は約束されていない。そういう事故になったら、どんな政府でもウソをついて誤魔化す以外、何もできないだろう。日本の首都圏人口3500万人を避難させるようなロジスティクスを用意することは、どんな優れた政府であっても不可能だからだ。
飯舘村の菅野村長も「ベストの対応がどうしても出来ないのが原発事故の本質」と仰っていたが、私もこの言葉に深く同意する。

女子学生(人文学部)Q: 「声をあげない」と言われる日本社会でも、今回の事故で少し声をあげ始めていると思う。でも声が届かない。声の届かない社会を変えていくには、具体的にはどうしたらよいのか?

(司会者が「ではこれで最後の質問」と前置きして上記学生をあてたのに対し、ヘーンさんは「女性のクォータは緑の重要な原則です。ですから、女性による質問の数が(全部の質問数の)半分になるまで、私は質問に答えます」と宣言! 会場拍手)

ヘーンさんA: この半年でいかに反対運動が続いてきたが、ということが重要。3月にはほんとに少数の人でたちあがった子どもを守る福島の運動も、政府交渉を粘り強く続け、次第に大きな支持を集めている。皆さんはそのことをもっと評価してよい。福島事故はこれから何十年も続くのです。まだ半年しかたってない。人びとが目覚め、行動をおこしつつある。その動きはもっと拡がり続ける。
数で考える必要はない。ドイツやイタリアの大規模デモは「伝統文化」のようなもので、日本ですぐ同じことが起こるわけではないでしょう。数よりも大事なのは効果。都市の人たちに「あなたの問題だ」と伝えることが大切。どこでも飯舘村になりうる、ということを伝えていく。
若狭で反対運動を続けてきた人たちと今日お話しすることができた。美浜原発での事故についてどのようなシミュレーションをして、どのような対策を用意しているのかという問いを(関電や行政に)投げかける。そうして出てきたものがいかに杜撰であるかを多くの人に知らせていく。行動、アクションは、金が無くとも智恵をしぼり、カラフルでクリエイティブで楽しいものにすることが大切。日本のマスコミはデモを報道してくれないという不満を皆さんは持っているかもしれないが、メディアは奇抜なもの・新しいものには必ずとびついてくる。そういうのをどんどん!
脱原発とは「より良い世界」を求めること。より良い世界とは喜びが生まれる世界。それを求めるアクションも喜びの感情を生むものでないといけない。

みどりさん(フロア女性): 孫が4人いるおばあちゃんです。チェルノブイリ事故のとき5歳くらいだった娘と一緒にデモをした。市役所から円山公園まで歩いた。娘はそのときのことを覚えてくれていた。今年の9.11では、その娘の子どもの手をひいてパレードした。円山公園から市役所まで歩いた。奇抜な格好(私はカトチャンの禿かつら、孫はアンパンマン)で歩いたので、案の定、毎日新聞が写真を大きく載せてくれた。精華大の学生さん、奇抜で、creativeで、楽しいこと、一緒にやりましょう!

下村季津子さん(環境市民)Q: ドイツは長い議論をへて脱原発・エネルギー政策を決めたのだと思う。日本では議論の材料となる情報を市民が手に入れることが難しい。賛成反対という以前に「どちらか分からない」という人が多かった。いま原発の再稼働をめぐっても、「(再稼働しないと)産業が空洞化する」云々といった産業界の主張をマスコミがそのまま書いている。ドイツでは国民の議論の材料となる情報をどのように入手し、どのように拡げているのか?

ヘーンさんA: 70年代、ドイツの若者たちは理想にもえていた。その人たちの多くが教師になり、教育の場で子供たちに核や原発の問題を伝えた。今の若い世代が「緑」をふつうの選択肢として見るのは、その成果。以前は、緑の党には老人世代の支持が少ないという弱点があったけれど、70年代の若者たちも今や老人になってきたので、最近は両方の世代の支持を集めることができている。
日本では原子力推進の教育が徹底されてきたようなので、これは大変だと思う。飯舘村や福島市で頑張っている若い人たちは、自分たちでデータを集め、よく考えて、明らかにおかしいと思えることに対して正面からぶつかっている。これはドイツで70年代の若者がしなければならなかったことと同じだ。ドイツでは世の中が変わるのに30年を必要としたが、日本ではそれほど年数がかからないだろう。大手メディアは広告収入に支配されているが、いまやブログやフェースブックのフォーラムなど70年代には無かった手段で十分対抗できる。情報が無いという状態に風穴を開けていける。
EUでは「環境情報権利法」を求める動きが強まっている。環境にかかわる情報を知る権利が市民にはある、という考え方にもとづくものだ。日本でもぜひこの動きを広めてほしい。

【会場拍手】


司会者(中尾ハジメさん)終わるまえに紹介しておきたいことが3つ。
●あれほどの事故が起きたのに私たちはどうして動かないだろうかという疑問があります。メルケル(ドイツ連邦首相)のような人でさえ、世間の動きを見て「脱原発」に切り替えた。たくさんの人が反対しているということを見せないといけない。会場の後に「さよなら原発1000万人署名」の紙が、お持ち帰り分も含めてたくさん置いてあります。たくさん持って帰って、たくさん署名集めてください。1000万人あつめましょうよ、お願いします。
●今日は岩上ジャーナル、IWJ の岡田さんにずっとUstream中継していただきました。録画もあとで見ることができます。今日来られなかった人にも知らせてあげて下さい。【 http://www.ustream.tv/recorded/17865876 】
●明日の1時半からは(京都五条の)「ひと・まち交流館」でまたメルケルさんが登場されます。[ メルケルじゃないよ! ]  あ、メルケルさんじゃなくて、みどりさんでもなくて(会場笑)ヘーンさんです! パネリストに宮台真司さんも来られます。5時半までなので、4時間以上たっぷりお話しきけます。ぜひ参加を。
ヘーンさんから最後にひとこと。。。


ヘーンさん: 10年後に皆さんとお会いするときは、脱原発を達成した国、エネルギーシフトを成し遂げた国の人びととしてお会いできることを楽しみにしています!


予定を40分近くこえ、20:40頃、終了。


誰かが「集合写真を撮りましょう、記念写真を!」と言って、準備にかかる。こういった団塊世代的感覚には、どうもついていけないので、あたしは離脱。
【10月19日追記: 写真はこちらを御覧ください。】





2011年10月1日

【Nuke】高木基金緊急助成の中間報告

高木仁三郎市民科学基金(高木基金)は3.11原発震災をうけて、この事故への市民科学の対応に特化した緊急助成をおこないました。その中間報告会の会場でのメモを公開します。
敬称略で失礼します。やりとりの一部、記入できていない箇所があります。ごめんなさい。

なお、この報告会の録画もUstアーカイブとして公開される予定。
(後日、録画とメモを照合し、抜けたところや食い違っているところを修正していきます。)

【追記1(10/2)高木久仁子さんからのご指摘を受け、お名前の間違いなど、記載を一部修正しました <(_ _)> 】
【追記2(10/8)報告4のなかの欠落部分(補償請求の意義)を補いました。】
【追記3(2012/12/23)報告1のなかの欠落部分(今後の課題3)について青木一政さんのご教示をえて補いました。】


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高木基金の中間報告会(原発震災緊急助成)
 2011年10月1日(土曜日)13:00-18:15
於:カタログハウス・セミナーホール(東京 代々木)

(録画を明日以降Ustで公開)

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定刻開始、司会=菅波 完(基金事務局)
(0)河合弘之(基金代表理事)あいさつ

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13:14-13:43 【発表1】
青木一政(福島老朽原発を考える会
「子どもの生活環境の放射能汚染実態調査と被ばく最小限化のための課題明確化」

・国・行政の調査や対策が子どもの生命・健康を最優先にしたものでないこと
・大学・研究機関による調査も子どもに焦点をあてておらず、被害最小化の実践を伴っていない。
・私たちの目的は2点:子どもの生活環境の放射能汚染実態を明らかにする、市民として取り組むべき課題を明確にする(→市民だけでできないことも行政に働きかけて実現をめざす)
・市民の実践活動と一帯の活動として研究を進める。(実践活動からの要求に応えるかたちで調査課題を修正しながら進める。)
・メンバー: 青木、阪上武(以上、ふくろうの会)、中手聖一(子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク)、富山洋子(日消連)、アイリーン・スミス(グリーンアクション)
・ラボの活動: 住民からの相談をうけて測定調査、専門家・専門機関の協力を得る(仏ACRO、神戸大・山内教授など)、子どもの被ばく最小限化をめざす他団体とも協力、国・行政への交渉・要請、メディアへの告知など
・活動事例(1) 福島県内の学校の汚染調査、米NIRSから送付されたγ線測定器10台で計測開始、学校に休校を求める、ブログに多くの保護者からの書き込み(3日間で650件)、
・活動事例(2) 江東区など東京周辺のホットスポット調査、スラッジプラント(下水汚泥焼却場)からの2次汚染があることを発見。三郷市の汚染状況も調査(→ 市への要請活動)
・活動事例(3) 福島の子どもたちの内部被曝調査、尿検査(検査した10人全員からセシウム検出)、フォロー検査で「追加的被ばく」が進行しているという事実が判明、
・被害は続いている。被ばくは続いている。
・測定して、実態を把握することで「やるべきこと」が見えてくる。
・市民の側からの不安・危惧を大切にする。
・みずから測ることで、感度をあげ、知識と技術を身につける。
・信頼できる専門家のちから、信頼できるデータが大切。
・調査結果を積極的に知らせる → 世論を動かしたい。
・今後の課題(1)「除染キャンペーン」に惑わされない(除染の効果の検証・監視)
・今後の課題(2) 内部被曝の実態が隠蔽される恐れ(県の健康管理調査だと検出限界が高すぎる) → 被曝予防につながる調査を進めなければいけない。
・今後の課題(3) 国・行政の測定、対策は子どもへの健康被害防止最優先になっていない。→子どもの被ばく最小化の立場から測定、調査を継続する。
・今後の課題(4) 避難範囲拡大・自主避難者支援の動きがまだ弱すぎる。連携強化していきたい。

・質問(選考委員=藤原寿和)県の「健康管理調査」の監視はどのように?陰膳調査の予定は?
 ── 答え(青木):県の調査は後追い。私たちは予防の観点から考えて行きたい。尿検査は便利(本人が行かなくても正確に計測できる)、継続したい。食品汚染については、まだ対応が十分できていないが、行政を動かすような調査・提言をしていきたい。

・質問(フロア女性)尿検査の検出限界は?
 ── 答え(青木):ACROの検出限界は0.3Bq/L(500cc, 24hr)、放医研の検出限界は13Bq/L、予防に繋げるためには前者のレベルが必要。

・質問(瀬川)助成金で購入するサーベイメーターは何に使う?
 ── 答え(青木):ホットスポット調査を継続する。

・質問(フロア男性)粉塵のデータはないか?(政府もまったくやってない?)評価が必要では?
 ── 答え(青木):山内教授の協力をえて、学校グランドでの吸引測定調査を検討している。

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13:44-14:13 【発表2】
村上喜久子(母乳調査・母子支援ネットワーク)
「母乳の放射能検査、福島原発事故による体内被曝」

・参考資料『土と健康』427号(2011年8・9月合併号)に掲載された報告記事
・チェルノブイリ事故のときに母乳が汚染されたことを想起した。民主党議員を通じて政府の対応を求めたが梨の礫。
・共同購入グループで牛乳の放射能検査をしていた経験から、もう自分たちで測ろう、ということになった。3Bq/Lが検出下限らしい。
・3月時点での試行検査で5人中4人の母乳から検出
・本格的な調査をするため、希望者を募り、検査会社に予約とり、クール宅急便で母乳100ccを送る。380名余り(4月から福島・茨城・千葉、6月以降は東京・神奈川・埼玉・栃木も)の母乳から30検体(29名)
・予想よりもはるかに広範囲で検出。内部被曝に詳しいと思われる研究者に大勢(片っ端から!)相談したが、母乳のことについてはっきりした知見を示す方はいなかった。
・検出された母親についてはアップルペクチン(富山?のメーカーで開発)を服用して様子を見てもらっている。また、低農薬りんご(共同購入)の皮付き甘煮での離乳食なども試みた。再検査でNDになった人が多いが、再度検出されたケースもある。
・検出結果から地域的傾向は読み取れない。
・紙おむつから尿を1kg集めて濃縮して検査(0.5Bq/L前後の検出限界)9月採取でも0.5前後の検出例がある。より詳しい調査、継続調査が必要。ぜひ支援の寄付をお願いしたい。
母乳も500cc集めると0.5Bq/Lくらいの検出限界を達成できる(しかし検査費用も高くなる)。

・コメント(選考委員=大沼淳一)検査結果が勝負。尿で2Bq/Lでれば体内に数千Bqあると考えてよい。サンプルに濃縮にかければ感度はあがる。5ℓあつめて500ccに濃縮すれば検出感度は10倍になる。やはり検出限界を下げないとデータで勝負できない。

・質問(選考委員=遠藤邦夫)メチル水銀も体内で不均等にたまるが、放射能の場合は?
── 答え(大沼)放射能だから特別な挙動をするわけではない。セシウムはあくまでセシウム(カリウム・ナトリウムと同属)としての化学挙動。

・コメント(瀬川さん)セシウムは実は甲状腺に多くたまる。
・質問(草薙?さん)アップルペクチンの使用について
 ── 答え(村上)チェルノブイリでの経験に学んだ。りんごの皮と実のあいだにあるペクチンが有意に排出効果があった(富山薬科大の田沢教授の紹介したデータ)。

・質問(選考委員=藤原)アップルペクチン投与の効果検証は? ── 答え:実験のような意味での検証はできていない。
 ── 補足コメント(瀬川)吸収を妨げる方法なので、ほかの栄養素の吸収もさまたげる。栄養状態などの経過観察を注意してほしい。
 ── 答え(村上):田沢先生の論文では、栄養吸収を妨げないという知見。

・質問(選考委員=藤原)測定機のメーカーと型式をあとで教えてほしい。

・質問(選考委員=山下)政府はなぜ検査しない/公表しないのか?
 ── 答え(村上):私たちの発表の後追いで検査はしている。政府調査のほうが対象広く実施できる(産婦人科 ── ほぼ3割から検出。私たちに検査を申し込んでくる母親は、ふだんから食べ物や健康にきをつけている方たち(ゆえに検出ケースが少ない??)、政府調査のほうが広い実態を反映する面があるかも。

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14:14-14:46 【発表3】
石田美聡(未来につながる・東海ネット 市民放射能測定センター;通称Cラボ)
「東海地方・市民放射能測定センターの開設と食品および環境の監視」

・Cラボの3つの軸: 食品放射能測定体制の確立、政府の暫定基準に対抗して市民の自主基準を設定する、ネットワーク化にむけて各地にチームを派遣
・7/29測定器(アロカのNaIシンチ)入荷、8月にボランティア測定者の養成講座、9月25日センター開所
・検出限界 10分測定で30Bq/kg → 測定時間延長により5Bq/kgくらいまで達成可能(4000円)、10Bq程度なら2000円
・できるだけ「安く、気軽に」開かれた測定室をめざす。ボランティア測定者による運営。市民科学者を育てる営みでもある。(養成講座に約40名・老若男女が参加)
・測定事例: 藤枝市のほうじ茶、60分測定と1000分測定、宮古沖タラ 90分測定、セシウム検出、(どこ?)栗 230分測定、
・試料の量と測定時間で検出限界が変わってくる。800gで10分だと30Bq限界、90分だと10Bq限界、360分だと5Bq限界。
・まだまだノウハウの蓄積が必要。試料の濃縮方法をマニュアル化し、依頼者自身に前処理をしてもらう方向。ソフトウェア改良もメーカーに求めている。
・自主基準値の検討、食品群別に異なる基準を追求したい。ウクライナの事例、Fコープ(九州)の基準(チェルノブイリ事故時)などを参考に「東海基準」を設定した。
・国の暫定基準、6.82mSv、Fコープ基準 0.22mSv をふまえ、東海基準 0.35(Cs134係数加味)を算出した。
・データは原則公開していく。
・当面は依頼検査を中心に、抜き打ち市場検査、給食検査、陰膳調査などを併行していく。他団体との共同調査も。養成講座も各地でおこないたい。

・コメント(フロア男性、北区の田中さん)1.ストロンチウム・プルトニウムのことも念頭においてほしい、2.恒常的な被ばくの危険性(ペトカウ効果、がん以外の病気など)を養成講座でしっかり教えてほしい、3. ICRPの「シーベルト」の概念が怪しいということ(基準の急な改訂など)もふまえて欲しい。

・質問(フロア女性、八王子市民講座)測定室を立ち上げたい、どのようにお金を集めましたか? 無料測定という無謀な夢をもつ者だが、測定費2000円/4000円の根拠は?
 ── 答え(石田):福島など深刻な地域の支援も視野にいれている。意味のある調査は無料でしている。測定器購入500万円、100万円は高木基金から、残りは草の根カンパや協力研究者が講演で稼ぐなど!

・質問(林洋子)測定室の運営は、費用かかると思うが、どうしている?
 ── 答え(石田):場所代は生協等の協力で仮設置でスタートした。5Bq限界を追求すると時間かかってしまうので、1日2〜3検体しか処理できない、それだと収入が不足、会員制度なども検討、まだ全体のコスト見通しがついていない。

・質問(フロア男性)東海基準の根拠は? 分析しないことを勧める場合もある、とのことだが、どのような場合?
 ── 答え(石田):測定時間の制約があるという前提で考えた。実効線量1mSvに満たない線を追求、1mSvを信じるのではなく基準設定のためのあくまで目安。事故後、摂取量ゼロは不可能、できるだけ少なく抑えるという観点で。

・質問(遠藤邦夫さん)安全係数は?
 ── コメント(瀬川)化学物質と放射能は違うので、安全係数という考え方とらない。政府基準は出荷させなかったら補償するわけだが、自主基準はそういうものではない。

・質問(フロア男性、たまあじさいの会)原子炉メーカー日立の測定器を使わなければならないということをどう考えるか?
 ── 答え(青木)ベラルーシ製のものは安くて性能も良さそうです。
 ── 答え(フロア男性、草薙)日立アロカは、日立メディコの子会社が最近買収したので日立グループにはいっただけ。
 ── (大沼)老舗のキャンベラもArevaに買収された。

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14:46-15:12 【発表4】
除本理史 [助成受給者=大島堅一氏の共同研究者]
「福島原発事故による被害補償と費用負担」 

参照:『世界』8月号の論文

・除本(よけもと)氏は公害の被害実態調査、被害補償の問題が専門、3月まで東京の大学、4月から大阪の大学、5月以降、大島と共同研究
・「支払われざる被害」をなくすための補償のあり方を明らかにしたい。そのために被害の全体像を明らかにする。
・今回の事故は規模が大きすぎる。従来の補償制度ではカバーできない。財源確保、費用負担、連動するエネルギー政策などに注意して問題点を明らかにしたい。
・被害構造(1) 地域社会がまるごと被害を受けるような状況が面的に広がっている。自治体として存亡の危機におかれる市町村がいくつもあるという事態は前代未聞(足尾鉱毒事件の谷中村廃村というケースがあるのみ)。
・被害構造(2) 「地域を引き裂く」ことが被害の本質、地域とは自然環境・経済・文化(社会・政治)という3要素の複合体。これらがバラバラに解体され、住民はそのどれをとるかという選択を強いられている。従来は、地域のなかで被害に対応していくことが当然だったが、今回はそうはいかない。
・被害構造(3) 家族離散という被害のかたち。母子避難、分散移住など。経済と環境のあいだで家族が引き裂かれている。
・被害構造(4) 先行きの見通しが立たない極めて不透明な状況下で、人生設計における重大選択を強いられる。「確実な選択」をしようと思えば「ふるさとを捨てる」ことを覚悟せざるをえない。21%(読売新聞9月調査)の人々がそう決断、事故後1ヶ月では7%、事故後3ヶ月では15%、半年後に21%になった。地域社会崩壊が進行している。失ったものは金銭で代替できないが金銭賠償というかたちだけが論じられている。
・被害実態と原賠審指針との距離を測る。金で償えないということを前提に考えないといけない。そのうえで距離を縮める必要。
・補償請求の意義: 指針と実態との距離があまりに大きいと深刻な事態になる。被害者がみずからの被害をきちんと請求し、事故被害の全体像を明らかにすることが重要。それが「原発のコストの顕在化」にもつながる。

・質問(フロア男性、北区の田中さん)債権者や株主の責任を問うべきだが、社債の扱いは? 賠償再建を優先するような法律が必要では? 電力会社の賠償債務を有限化する与野党の動きはモラルハザードを生む。
 ── 答え(除本):今日の発表では財源論の部分を省略した。資料3頁めの中断右側のスライドを見てほしい。大口債権者(銀行など)の負担を求めていくことが重要。社債権者については実態がよく把握できていないので、経済への影響が見極めにくい。原賠法の枠組みで債権カットも可能。有限化についての認識は、田中さんとまったく同じ。

・コメント(理事=中下裕子弁護士)自主避難の問題が正念場を迎えている。日弁連が強く言ってはいるのだが、なかなか展望がひらけない。「言論統制」のような状況も発生している。測定に対する制約も生じつつある。このままの状態では、危機的。
 ── 答え(石田):いま避難対象地域の調査を先行させているので、自主避難」の問題をまだ十分分析できていないが、公害問題における「未認定」問題に近い構造だろうと思う。

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休憩 15:13-15:24

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(番外)吉岡斉(高木基金顧問)
首相官邸の事故調査委員会の動向
・菅首相は意欲的な枠組みを用意してくれたが、野田首相はまだ委員会に顔出ししていない。
・内閣官房は徹底した秘密主義、箝口令もしかれており、メールも「機2」扱い。録音はできるが、非公開扱い。
・各地視察を勧めている。福島はもちろんのこと、女川、柏崎刈羽、浜岡も行った、原町火力も行った。東電がどういう会社かということが、そこはかとなく判ってきた。
・事務局を中心に事実関係の調査、8割がた終わった。「検察方式」で下っ端からヒアリングを進めている。いま部長級くらいからヒアリング、大物はこれから。ストーリー作りにはいる段階。
・年内に中間報告を公開、年明けに外部レビュー(これも公開)。
・再発防止が調査目的、原発無くせば簡単なのだが、メンバー顔ぶれからするとそうはならないだろう。しかし、政府・東電の用意するストーリーには乗るまいという気概をもった委員が多い。報告には期待してほしい。
・国会の調査委との関係は、よく見えない。
・事故解析をどこまでやるのか。東電のシナリオ(現実から乖離した想定)を斬っていくことが課題。

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15:35-16:07 【発表5】
吉田明子(脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会;略称 eシフト)
「エネルギー基本計画の課題分析、市民版基本計画策定、社会ムーブメントづくり」

・60団体、180名くらいが参加; 吉田氏はFoE-Japan事務局
・3つの活動分野: (1) 事故被害の最小化、責任の明確化、(2) エネ政策転換、(3) 社会ムーブメントの巻き起こし
・震災後に原発問題に取り組み始めた団体・個人が多い。6月に「市民委員会」をスタートさせた。
・再生可能エネルギー促進法の成立にむけてロビー活動を集中的におこなった(7月・8月)。
・「市民版エネルギー基本計画」「エネルギーシナリオ市民評価」の議論を進めている。議員むけ政策勉強会も。
・今、政府レベルで走っている3つのプロセス:
1.国家戦略室「エネルギー・環境会議」成長戦略の再設計、来年6月に決定される。不透明。
2.経産省エネ庁「総合資源エネルギー調査会」エネルギー基本計画のみなおし、飯田哲也さん、伴英幸さんがメンバーに入った。10/3の初回はインターネット中継もされる。インプット
3.内閣府「原子力委員会」原子力政策大綱見直し、こちらも伴さんが委員に入っている。
これらのプロセスへのインプットを強めていく。
・議員へのアプローチ: 院内セミナー、要望書・声明など
・市民版エネルギー基本計画: 8つの視点からカウンター提案。自然エネ飛躍、高水準の省エネ、原発の着実な廃止、化石燃料依存から脱却、分散型エネ社会の構築、電力システム改革、クリーンエネ技術の産業育成、コスト根本的見直し、政策決定プロセスへの市民参加
・メッセージを伝えること(情報共有・広報)はできるが、メッセージを受けた人がみずから動いてアクションをおこすことに結びつけることが課題。ロビーマニアル(地元の国会議員への働きかけ、など)の用意。

・コメント(基金顧問=吉岡)「市民版基本計画」ということが、私は「基本計画」廃止がよいと考えている(吉岡氏は最初のエネルギー基本計画をが策定されたときの委員)。エネルギー基本法の規定そのものがおかしい。原発を治外法権としている。基本法の抜本的改定が必要。国家計画で民間を縛るのは社会主義的計画経済の性格、経産省が決めるというプロセスを認めること自体まちがっている。
 ── 答え:政府の基本計画に沿って作ろうというわけではない。

・質問(理事=中下弁護士)政府の3つのプロセスの関係・調整は? 国家戦略室がベースになるのか?
 ── 答え:不透明です。菅首相はかなりリーダーシップをとって、戦略室ベースで進めていたが、首相交代後、混迷。

・コメント(理事=藤井石根)今は経済の視点でエネルギー確保を論じるが、人口減という長期的な条件のなかで見ないといけない。
 ── 答え(吉田):脱原発は1つの視点では解決できない。運動にネットワーク化が必要なのは、それゆえ。

・コメント(瀬川)エネルギー経済にかわって日本社会は何を優先していくのか、という視点も議論に盛り込んでほしい。

・質問(フロア男性)原発の「即廃止」ではなく、なぜ「着実な廃止」なのか? 電力シナリオで大丈夫というのなら即廃止を言うべきでは?
 ── 答え:グリーンピースの2012年シナリオもあり、即廃止も可能というシナリオはある。異なるシナリオとの比較分析もしていく。

・質問(フロア女性)イタリア、ドイツで原発廃止がすぐに決まったのは何故か? 政治のシステムの違いであれば、それを導入する方向で考えるべきでは?
 ── 答え(吉田): ■■■
・コメント(細川)政府の土俵、つまり日本国家としての戦略・計画ということに寄りすぎている。エネルギー資源を大量に輸入している国だということをもっと深刻に考えてほしい。

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16:07-16:31 【発表6】
佐藤大介(NNAFジャパン)
「福島原発事故の全容をアジアに伝える」

・各国もちまわりでノーニュークス・アジアフォーラム(NNAF)を続けてきた。会議だけでなく、現地住民の運動との連携を重視してきた。
・今年のフォーラムはタイで開く予定だったが、事故を受けて、タイの原発計画が「延期」されたため、タイの運動家からの提案で、急遽、日本で開くことに。
・福島原発後、アジア各国で反原発運動が強まった。
・タイ 立地候補地で、福島事故直後から反原発デモが繰り返されている。
・韓国、サムチョック(候補地)、コリ(古い原発が稼働中)などで活発な反対運動。
・フィリピン: バタアン原発の「復活」を警戒
・インド: ジャイタプールとクダンクラム、あわせて990万kWの新設計画。 計画規模もでかい、住民の反対規模もでかい、弾圧規模もでかい!
・インドネシア、ジュパラ(関電が調査したとこ)
・事故後しばらくはアジア各国で報道続いたが、すぐ下火に。「日本の人はおとなしく、がまんしている」というトーンでの報道。 → 実際はどうなっているのか知りたいという声あり。
・NNAF 2011 7/30-8/6 福島・東京・広島・祝島、45名参加。経産省交渉、東電への抗議活動も。
・「原発を容認してきてしまったことに慚愧の思い。これから計画されている国の皆さんは、ぜひ体をはってたたかってほしい」という中手聖一さんのメッセージがアジアからの参加者にはもっとも印象的だったという。
・「ヒロシマを経験した日本が平和利用の原発を進めている」というのがアジアでの推進の決まり文句。そうではないんだ、とうことを明確なメッセージとして発していかないとだめ。
・NNAF 2011はタイNation紙、Bangkok Post紙などで報道された。台湾でも報道があった。韓国からのフォーラム参加者が8/24に報告集会をひらき、分厚い報告書をいちはやく発行した。次回開催希望に手をあげた国が6つもあり(例年はおしつけないなのに!)、議論のすえ韓国で来年開催することに。
・インド(クダンクラム)では、フォーラム参加者の学者ウダヤクマール氏が民衆とともに反対運動の先頭に立っている。9月中旬から無期限ハンストもいったん始まったが、建設計画を見直す動きが出て、いったんハンストも中断している。

・質問(選考委員=藤原)最大の推進国である中国からの参加は?
 ── 答え:東京でのフォーラムには中国の環境運動家の参加もあった。中国では反原発は「反国家運動」とみなされるので、注意しながら進めている。ウェブで原子力技術に対する科学的な批判などが少しずつ出始めている。そういった動きが弾圧を受けないかどうか様子をみつつ、進めている。

・質問(フロア女性)ベトナムはどうでしょう?
 ── 答え:高木基金から減額されたのでベトナム語への翻訳の企画は断念した(会場苦笑)、しかし、やはりベトナムへの情報伝達は重要、考えていきたい。

・質問(フロア男性)アジア各国では使用済み燃料の処分についての議論はどうなっている?
 ── 答え(佐藤):台湾では乾式貯蔵をすすめている。ベトナムとは使用済み燃料引き取りが輸出条件、それをモンゴルに持っていく構想だったのだろう。韓国では再処理の反対運動が強まっている。

・質問(フロア男性)アジアで「日本では反原発運動はない」という認識になっているので残念。日本は政治的な自由もあり弾圧もないのに、これでは中国やベトナムの人たちにメッセージを送れない!

・コメント(選考委員=大沼)東大の原子力の学生はほとんどアジアからの留学生、そういった状況もふまえて運動続けてほしい。

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16:31-16:58 【発表7】
島田恵(六ヶ所みらい映画プロジェクト)
「避難区域の人々の生活環境の変化と意識調査、六ヶ所村民・青森県民の意識調査」

・六ヶ所の映画のクランクインをした途端に、福島事故がおきた。福島とつなげた作品に練り直すことにした。
・フッテージ(制作中の映像断片)上映、福島、東京(子どもたちの政府交渉)、六ヶ所、大間、弘前。
・六ヶ所村、菊川さんインタビュー「村では推進は一握りの人だったのが、事故後は、それまでどちらかというと反対派にシンパシーを感じていたような人も、国の政策が変更になったら六ヶ所で仕事がなくなるかもしれない、生きていけないかもしれない、という危機感を抱いて、むしろ推進側に寄っている。」

・質問(フロア女性)写真で記録をとってきたあなたが映画という手段を使おうと思ったのは、なぜ?
 ── 答え:六ヶ所に12年住み、そのあと家庭の事情もあって東京に戻ったが、そのかん鎌仲さんの『六ヶ所村ラプソディー』が広まったことなども見て、映像で訴えていくことの強みを感じた。友人知人たちから無謀だと言われつつ、映画制作にとりかかった。

・質問(選考委員=山下博美)外国語版を用意して、アジア各国などに伝えていくつもりは?
 ── 答え:いま具体的計画はないが、できればやりたい。

・質問(瀬川)2012年を記録するということが重要では?
 ── 答え:2012年3月クランクアップというスケジュール。編集しながら、追加撮影をして、12年秋に公開したい。

・質問(フロア男性)調査概要にある「数字データ」とは何か? プロジェクト名の「みらい」に込める思いは?
 ── 答え(島田):自主避難の数、人口動態、お金のデータを中心に盛り込む。原発が稼働する限り未来はない。全廃されたとしても膨大な「負の遺産」が残る。そういった状況が、子孫の目にどう映るかという視点を保ちたい。

・補足(島田)みんなの目が福島に集中しているあいだに、六ヶ所で何が進んでいるか(英国からの高レベル廃棄物輸送など)、核のごみ問題という側面をもっとクローズアップしていきたい。

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16:59-17:31 【発表8】 
白石草(OurPlanet-TV
「福島原子力発電所事故をメディアはどう伝えたか」

・独立系メディアが受けられる助成金というのがほとんどない。高木基金のことは最初から知っていたが、今回、助成をいただいてここでお話できるのは嬉しい。
・OTVはスタッフ4名、うち制作は2名。原発事故以降、関連した独立ニュース番組を毎日2本くらいのペースで公開してきた。
・この事故があって脱原発できなければ日本はもう脱原発できない、というのと同じ程度に、この事故でメディアが変わらなければ日本のメディアは二度と変わるチャンスが無い、と強く思う。
・日本のメディア制度の特殊性(独立行政委員会が無い、クロスメディア規制が無い、パブリックアクセスが無い、記者クラブが有る、広告会社が寡占)が、社会に情報がきちんと出ない原因になっている。
・海外の環境アクティビストは、必ずといっていいほど、ラジオやテレビの番組を持っている。それが当たり前。パブリックアクセスが十分保障されている。日本のメディアにパブリックアクセスの枠が無いのは異常。
・事故を報じるメディアの実態をふまえ、日本の主流メディアが抱える問題を明らかにしたい。
・NPO・NGO、市民によるメディアの可能性をさぐりたい。成熟した市民社会を形成するためのメディア環境のあり方を提示したい。
・原発事故とメディア調査 アンケ189名(by一橋大・大学院、白石氏が教えているクラスの学生と)「TVを見ていること」と「福島事故のことをよく把握している(と思っている)」ことが連動している、しかし具体的知識を問う(e.g.「1号機のメルトダウンがいつ起きたか知っていますか?」)設問をかけると、TVから主に情報を得ている人では3割しか知らない、インターネットで主に情報を得ている人は過半数が知っている。
・人々の意識と情報接触の関係を明らかにしたい。
・提言は、来年3月に放送する番組で打ち出したい。

・コメント(選考委員=藤原)今回の事故のような状況では、正確な情報を伝えない日本のメディアの惨状は犯罪と言ってよい。ぜひこれを変えていきたい。期待している。
 ── 答え(白石):日本ではマスメディアが総務省から分離独立していない。独立行政委員会がなかったらEUには加盟できない。発送電分離と同じ問題。この機会に変えないとあと100年は変わらない!

・コメント(理事=中下弁護士)科学者のコメント(メディアでの発言)についてもぜひ検証してほしい。
 ── 答え(白石):犯罪とみなして分析を進めようとしているメディア研究者は少なくない。調査研究動向をきちんと把握して、レポートしたい。

・質問(瀬川)雑誌メディアは今回かなり奮闘しているが、それをどう評価するか? また、政府による「デマ規制」は実際にどのようにおこなわれているのか?
 ── 答え(白石):『週刊女性』『女性自身』『女性セブン』の取り組みは特筆に値する。メディア規制について、たとえば読売新聞の「三郷にホットスポットがあるというデマのチェーンメール」云々の記事は、背景もふくめきちんと解明したい。

・コメント(フロア男性)日本では科学者がかなり多く官庁に在籍している。その人たちが動きがとれないという現状が問題。

・質問(選考委員=遠藤)番組で言われたことの分析だけでなく、言われなかったことの分析が必要では? ── 答え:メディア研究者が全番組解析などの構想をたてている

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17:31-18:07
全体討論 

中下(理事): 今日の皆さんの報告を聞いて、高木基金として緊急助成という対応をして本当によかったと思う。研究に規制をかける通達、科研費の選考がおこなわれる時期なので、弁護士会として不当な規制をしないよう申し入れるが、かなり危ぶまれる状況。健康調査については福島県医大に一本化しようと強引にやっている。しかし、データがそこに集約してしまったら、将来、被害を訴えても裁判に勝つためのデータが無くなってしまう。これは大問題。「エコチル」(大規模疫学調査)を活用すべき。
菅波(事務局):「調べるな、測るな」という規制の動きは強まっている。
瀬川: 健康調査の資金管理を掌握しているは資源エネ庁の核燃サイクル課である。せめて厚労省か環境省にひきとらせるべき。
細川(理事):「半減期」という用語の使い方が意図的に不適切。半減期×10倍(2の10乗分の1)で考えるのが基本。「除染」については、緊急除染と恒久除染のちがい、農地の除染と市街地の除染のちがいなど、きちんと区別しながら考えないといけない。
藤原(選考委員): 災害廃棄物の埋め立て基準(8000Bq/kg)を10万Bq/kgにまで引き上げる動きあり。管理型処分場なら、それで対処できるという議論。しかし「ちゃんとした管理型処分場って、一体どこにあるの?」という実情を踏まえて考えないといけない。千葉県に残土処分場がたくさんあるが、これまでほとんどフリーパス、何の規制もない、そこに除染廃棄物が持ち込まれるという恐れもある。
瀬川: 廃棄物は「発生者責任」で考えるのが基本。消費者責任もあるだろう。福島は東電の電気を使っていなかった、という事実を重く受け止めるべき。本来は、東京に廃棄物を持ってきて、東京の人が避難する(人口は減らしたほうがよいし、ふるさとと思っている人も多くない)、くらいの議論をちゃんとすべき!
遠藤(選考委員): たぶんこの会場に来ている人は「普通の人」じゃないかも知れない。世の普通の人は政府発表や安全解説をうのみにしていたり、放射能についてのごく基礎的なことも理解していない。
細川: 市民測定は事態を動かすモーメントとして必須。「不正確だ、測らせるな」という圧力はかかるだろうが、それでも測り続けることが大切。
坪井: ふつうの女性です(会場笑)。市民による放射線測定の交流会などしてます。食品基準の目安も、海外と日本で全然ちがう数字が言われていて混乱している。
菅波: 全体討論の時間をもうすこし取りたかったが進行が押して30分くらいしかとれず申し訳ない。

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18:08 閉会挨拶 高木久仁子(基金事務局長)
・「高木仁三郎さんが生きていたら今どうしているでしょう」と多くの方から問われるたびに絶句する。核と人間のつきあいは100年もたってない。仁三郎は核分裂発見の年に生まれたことを意識していた。人間がコントロールできない技術、つきあってはいけないものだという確信をもち、自分の生きているあいだに止める・無くすことを目指して生涯をかけたが、それが果たせずに逝かねばならなかった。生きている私たちは、おろおろしながらも出来ることを精一杯しながら希望につなげていきたい。

2011年9月29日

【Nuke】除染活動を通じて見えてきたこと


 月刊『部落解放』11月号(10月中旬発行予定)の巻頭コラムに寄せた文章(8月末執筆)をもとに、若干手を加えたものを以下、公開します。

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 2011年3月11日の原発震災(東電事故)により、政府が住民の避難や避難準備を指示した区域からさらに数十キロ離れた地域でも法定の「放射線管理区域」をはるかに上回るような汚染が生じている。本来、ただちに避難(最低限でも小児と妊婦の退避)がなされるべきだが、事故をなるたけ小さく見せかけたい政府は消極的な対応に終始し、「ただちに健康に影響しないので心配するな」との大本営発表が繰り返された。小さな子供や胎児を抱える親たちの中には意を決して自主的に避難した人も少なくないが、住居・仕事・学校・介護など様々な制約のある中で汚染地に住み続けざるをえない人々も多い。安心情報を鵜呑みにして危機感をもたず「普通の日々」を送る人もまた多い。

 このような異常な事態を憂慮した私たち(いくつかの大学の教員と福島住民の協働チーム)は放射能除染・回復プロジェクトを立ち上げ、5月中旬の第1回調査を始めとして、福島市(おもに北東部のホットエリア、すなわち放射能汚染濃度の高い区域:渡利地区、御山地区、大波地区など)に通って、通学路や公園や駐車場などの放射線測定、家屋や農園の除染実験、企業との話し合い、記者会見などを展開してきた(プロジェクトの基本的な考え方や進行状況は7月19日の記者会見資料を参照されたい)。

 事態のあまりの深刻さとスケールの大きさ故、私どもたかだか十数人の活動はドンキホーテの如き混乱と滑稽さを伴う。しかし、活動を毎月重ねるにつれ、少し見えてきたこともある。

 当初、国も県も市も、汚染は心配ないレベルだから避難も除染も必要ないとの姿勢だった。5月頃は「じょせん」という言葉を聞いても一般の人には何のことか分からないのが普通だったろう。しかし、私たちのグループ以外にも放射能除染を試みる動きは日々増えていき、それらが報道されたり、土壌汚染濃度についてのデータが次々と明らかになるにつれ、「このまま住み続けてよいのか」という問題意識を明確にする住民も増えた。行政の側からすれば「住民の不安」が放置できないレベルに達したのである。

 7月中旬あたりを境に、行政側は突如「除染計画」に積極的になり、そこにビジネスチャンスを嗅ぎつけた企業や原子力業界団体の動きもにわかに活発化した。だが、行政主導の除染は「住民を安心させる」ことが目的化しており、「避難させない」ための口実にされている。

 継続居住が可能な地域の除染は急ぐべきだが、そもそも「継続居住が可能かどうか」の判断ができるほど綿密で徹底した線量測定を行政が怠ってきた(あるいは測定結果を公開しないできた)というのが実情である。除染作業では、ホットスポットの確認や高線量の要因(たとえば児童公園であれば芝地や滑り台着地点の土など)の特定と除去を優先しておこなうが、地域全体として線量が高すぎるところでは、まず立入禁止にしたり住民を避難させたりして、そこの除染は後回しにするという判断も時には必要となる。

 除染の可能性だけを強調して、食品による内部被曝を過小評価するのも大きな間違いだ。校庭の土を削って放射線量が下がったのでもう大丈夫、さぁ「地産地消給食」を、といった倒錯した押しつけは受け入れがたい。

 私たちのプロジェクトでは、「避難させないための除染」という考え方をとらず、除染と避難は「放射線被曝低減」のための総合対応の一環として連携して実践されるべきもの、との考え方に立つ。また、放射能を拡散させないための配慮として、できる限り水を用いず、固めて剥ぎ取る方式を追求している(詳細は前掲ウェブサイトを参照)。

 福島県やいくつかの市町村では、圧力水洗浄、つまり放射性物質を含む汚れを高圧ポンプで洗い流す方法を提唱している。この方法だと、除染現場から汚染を移動させることはできても回収することができない。汚染水の行き先を考えずに「洗え、洗え」では、放射能を拡散させ二次的な汚染(たとえば下流でのホットスポット形成や農業用水への混入)を招く。現時点でも下水処理場の労働者の放射線被曝は深刻な問題であるが、それがさらに悪化する恐れも高い。

 洗い流すことによる一時的効果は、住民にひとときの「安心」を与えるかも知れないが、落ち着いて考えれば、人々がたがいに汚染を押しつけ合う結果となる。自らを守るために放射能を洗い流そうとする人も、下流でそれを押しつけられる人も、ともに原発事故の被害者なのである。被害者どうしを分断し、被害を押しつけ合うような「除染」であってはならない。行政主導の除染事業では東京電力の責任と義務が不問に付されているが、加害者企業の「汚染物引き取り責任」と賠償責任を見過ごすわけにはいかない。

 原発震災によって脅かされているのは人々の健康であり、経済の基盤である土地と水であるが、同時に、避難や移住のための正当な支援を受ける権利の著しい侵害でもあり、被害者が加害者になる状況を強いられるという悲劇でもある。原発震災は人災であると同時に「人権災害」でもあるということを銘記したい。



2011年9月15日

【Nuke】福島市での除染活動で見えてきたこと

 急な企画ですが、明後日 9月17日(土)京都・堺町画廊にて、簡単な報告会をおこないます。おもな話題は:


 ・福島原発事故による地域別の汚染状況
 ・除染の必要性と可能性(場所によっては不可能性)
 ・「除染」と「避難」の関係 ── 避難させないために除染するのではない
 ・「放射能除染・回復プロジェクト」の福島市での活動(5月〜8月)
 ・その他の様々な「除染」活動、やり方/考え方の違い、問題点など
 ・「除染廃棄物」をどうするか


などです。


  →  →  → 詳しくは、ピースメディアのボードを御覧くださいね。


2011年7月20日

【Nuke】除染プロジェクトPressRels



放射能除染・回復プロジェクト 記者会見

2011719日 於:福島市・コラッセふくしま

 本日の記者会見において配布する資料とその趣旨は、以下の通りです。時間の制約があり、すべてを詳しくお話することはできませんが、お問い合わせやご指摘をぜひお寄せください。


■ 添付資料1 放射能除染・回復プロジェクト 声明文

 プロジェクトの発足の経緯、基本的な考え方、活動状況について述べました。本プロジェクトは、福島県民からの呼びかけを受けて、エントロピー学会(http://entropy.ac)有志と複数の大学の教員らにより始められ、住民と一体となって進められています。


■ 添付資料2 測定事例

 本プロジェクトがおこなってきた放射線ホットスポット調査、民家の除染実験の成果の一部を紹介しています。なお、本プロジェクトの福島市での活動を紹介した映像も、合わせてどうぞ御覧下さい。

http://bit.Ly/josen526

http://bit.Ly/josen527

http://bit.Ly/josen613


■ 添付資料3 放射能除染マニュアル(第1版)

 本プロジェクトが、福島市内での実験・実践をふまえ、住民のために作成したマニュアルの初版です。その大きな特色は、次の4点です。

放射能を拡散させないための配慮(具体的には、できる限り水を用いず、固めて剥ぎ取る方式を追求)していること

東京電力の引き取り責任と補償責任を重視していること

特殊な(あるいは高価な)機材や薬剤を用いず、市民が普通に入手できて使うことのできる道具・資材による除染方法を提案していること

「避難させないための除染」という考え方をとらず、除染と避難は「放射線被曝低減」のための総合的な対応の一環として連携して実践されるべきもの、との考え方に立つこと


 すでに、福島県災害対策本部も放射能除染のマニュアル「生活空間における放射線量低減化対策に係る手引き」を発表しましたが、この手引きには、安易に圧力水ポンプを使用して放射能を拡散させ二次的な汚染を誘発する危険、回収した落ち葉の焼却処理の奨励など、見過ごすことのできない問題があり、東京電力の責任と義務についても不問に付されてしまっています。

圧力洗浄の問題点については、上記マニュアルの付録としてまとめてありますので御覧ください。


【8月8日追記: 除染マニュアルの第2版はエントロピー学会のウェブサイトに掲載されています。校正確認ののち、当サイトにもアップします。】


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以下、「声明文」(上記 添付資料1)のテキストを貼り付けておきます。

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東京電力福島第一原発事故により、福島県を中心とした広い範囲に大量の放射能が降り注いだ。3月末の段階で福島市と川俣町の学校・保育所などでの放射線測定が保護者の手によっていち早く実行された。その結果をふまえた保護者・市民からの要請により、4月の時点で、福島県による学校運動場の調査データが発表されて、子供たちの放射能被曝の厳しい実態がわかってきた。子供たちの被曝は運動場だけでなく、通学路や児童公園や家庭生活圏でも生じている。福島の子供たちは、一刻も早く避難すべき状況にある。

一部の子供たちは家族とともに自主的に避難している。しかし、まだ多くの子供たちが福島で不安を感じながら暮らしており、一刻も早く放射能除染を行なうべきである。「避難」と「除染」という2つの方法は、互いに矛盾するものではない。子供たちの健康と生命を放射能の脅威から守るという最も重要で基本的な立場に立つならば、「避難」と「除染」は相互補完的なものである。ところが、国や福島県は、避難させないことを目的に“除染”を呼びかけているかのようにみえる。もしそうだとしたら、国や県の姿勢は、守るべき根本価値を見誤った本末転倒な態度である。

 

福島における子供たちのこのような現状を憂慮した私たちは、「子供たちの放射線被曝量を可能な限り減らす」ことを目的として「放射能除染・回復プロジェクト」を立ち上げ、活動を開始した。すでに、2011517日から19日には除染すべき民家の事前調査と通学路のホットスポット測定を行なった。610日から14日には、3軒の民家と通学路の一部の除染を実施した。そして、716日から19日には、企業や自治体の管理地におけるホットスポットの調査と、民家、果樹園のモデル除染を実施した。

 政府や自治体を頼りにして除染してくれることを待っていても被曝状態が続くだけである。子供たちの被曝を避けるためには、市民自らが除染を実施していく必要に迫られている。そこで私たちは市民が実施できる「放射能除染マニュアル(第1版)」を作成した。そこでは、福島県が実施しようとしている除染方法ついて、とくに「圧力洗浄機」を使用することの問題点を強く指摘した。

県の除染方法には、そのほかにも、落ち葉などの焼却処理を認めていること、汚染土などの保管方法があいまいであることなど重大な問題点がある。私たちは、福島の放射能除染作業における重要な原則の一つとして、除去された放射能汚染物質は東京電力に引き取らせ、最終的には福島第一原発へ戻すことがあると考える。さらに、子供たちの通学路や児童の生活圏における被曝量を減らすためには、家や学校だけでなく、商業施設の駐車場や自治体の管理地を含む公共の場所に数多く存在するホットスポットを除染しなければならないが、県が実施しようとしている除染計画には、それらが決定的に抜け落ちている。

 私たちは今後も、放射能除染マニュアルの改善、実証的モデル除染の実施などを提案し、一刻も早く福島が放射能汚染から回復する活動を継続していく決意である。

 

■ 《放射能除染・回復プロジェクト》 福島の住民の呼び掛けに応じてエントロピー学会有志と複数の大学教員らにより始められ、住民と一体となって進めているプロジェクトです。

 連絡先:中里見博(福島大学行政政策学類)h-naka@io.ocn.ne.jp 


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 プロジェクトには、これまでのところ、福島大学、京都精華大学、同志社大学、大阪大学、名古屋大学の教員が参加・協力しています。


2011年6月28日

【Abs/Nuke】Koongarraのウラン開発、事実上不可能に

【ジャビルカ通信】号外 2011年6月28日配信



こんにちは、細川です。(重複してご覧になる方、ごめんなさい。)


すでにツイッターで速報しましたが、パリで開催中のユネスコ世界遺産委員会において、

北オーストラリアのクンガラ Koongarra 地区を世界遺産「カカドゥ国立公園」に編入することが決定されました。


これで、同地区でウラン採掘権をもつ仏・アレバ社(旧・フランス国立原子力開発機構)によるウラン採掘は不可能となりました。

30年以上にわたりウラン開発に抵抗を続けてきたグンジェイッミ・アボリジニーの希望が、やっと1つ叶いました。


次は、操業中のレンジャー・ウラン鉱山の閉鎖、そしてカカドゥ国立公園への編入、そして、

「凍結」中のジャビルカ鉱区の開発断念、そしてカカドゥ国立公園への編入

── これらの実現をめざしていきましょう。


クンガラ鉱区では、日本の旧動燃(現・核燃サイクル機構)もナチュラルアナログ試験を繰り返すなど、開発に関与してきました。


グンジェイッミ先住民族法人(GAC)のプレス発表(英語)およびクンガラ地区の土地権代表者であるジェフリー・リーさん(Djok Gundjeihmi氏族)の声明(グンジェイッミ語と英語翻訳)は

こちら↓です。

http://www.mirarr.net/media/GAC_media_UNESCO_27_June2011.pdf



【注釈】

(1)クンガラの先住民族土地権をもつジョック(Djok Gundjeihmi)氏族とレンジャーおよびジャビルカの先住民族土地権をもつミラル(Mirarr Gundjeihmi)氏族は、ともにグンジェイッミ語を話すアボリジニー集団で、相互に親族関係にあり、多くの神話・儀礼を共有しています。(グンジェイッミ語の表記で dj は英語の j に近い音、h は声門閉鎖子音です。)


(2)ジャビルカ(Djabulukku、英語表記ではJabiluka)、レンジャー、クンガラの3つのウラン鉱床地区は、カカドゥ国立公園の中に位置しますが、ウラン開発のために国立公園(および世界遺産)指定から除外されるという不自然な状態が続いてきました。このことは、世界遺産委員会でもこれまでたびたび問題視され議論されてきましたが、今回、クンガラのカカドゥ編入という至極まっとうな結論が出たことは、ジャビルカ開発問題の今後にも強い影響をおよぼすと考えられます。



細川弘明 拝 twitter.com/ngalyak

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★アジア太平洋資料センター(PARC)の雑誌です。

 『オルタ』2011年7・8月号

 特集 本気で脱原発

 執筆陣: 田中優/大島堅一/糸長浩司/山内知也/

      佐久間智子/村田あづさ(祝島通信)/福田 邦夫/ほか

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