2012年6月10日

高木基金 成果発表会 2012年6月10日

高木仁三郎市民科学基金(高木基金)の2011年度助成研究の成果発表会が、2012年6月10日、東京・大崎の南部労政会館にて開催されました。約80名が参加し、15件の成果報告と質疑・討論がおこなわれました。

会場からの中継ツイートに若干加筆して、再録します。

【☆おことわり】
あくまで要所要所を書き留めたにすぎませんので、完全な記録ではありません。細川の聞き間違いや誤解あるやもしれません。発表と議論の雰囲気を感じ取っていただければ幸いです。

【☆☆おねがい】
発表者の方、参加者の方、訂正・追加すべきところ、お知らせくださると助かります。どうぞよろしく。


【2012.6.13 第1報告 小泉雅弘さんからのご指摘をうけ2箇所訂正しました。】
【2012.6.19 第15報告 玉山ともよさんからのご指摘をうけ3箇所訂正しました。】



 当日は、午前中は電波の状況が悪く、昼過ぎに接続が安定してから、午前のメモと午後の中継をいれこに配信するような形になってしまいました。以下では、プログラムの進行順に掲載します。(当日のツイートと順序がちがっています。)


 なお、発表グループ名は助成決定の際のもの。グループないし組織名のあとのカッコ内の氏名は当日の発表者のお名前であって、必ずしもグループの代表者ではない。また、発表時点では所属組織が変わっている場合もあるが、ここではすべて昨年の助成決定時点での所属を記載した。



9:30すこし過ぎ、開会

代表理事=河合弘之さん、挨拶 

  • 事故によって高木仁三郎さんが再評価されているのは悲しむべきこと。高木さんは生前、「大事故が起きて皆の認識が変わる、というような結末にはなってほしくない」と言っていたが、残念なことに大事故がおきてしまった。
  • 高木久仁子さんは「苛酷事故がおきても、日本は変わらないかもしれない」とかつて仰ったことがある。私は「それはないだろう、苛酷事故がおきれば、いくら日本でも変わるでしょう」と思っていたが、今の再稼働の動きなど見ると久仁子さんの懸念が的中してしまったような気もする。しかし、あきらめず変化を求めていく。
  • 高木基金のように、助成団体でありながら運動体としての性格もあわせもっているのは稀有な例。今後とも、この独自な性格を保っていきたい。


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【第1報告】9:44-10:12
モペッ・サンクチュアリ・ネットワーク(札幌事務局:小泉雅弘さん)
産業廃棄物最終処分場建設がモベツ川水系の野生サケの遡上・産卵に及ぼす影響に関する市民調査

  • 紋別も藻別もアイヌ語 mo-pet(静かに流れる川)に由来。
  • アイヌ民族の先住民族としての権利をめぐる動向 2008年、ようやく日本政府も「先住民族」として認める(国会両院決議)。しかし、政策は進んでいない。
  • アイヌ漁師、畠山敏さん(70)との出会いで、このネットワークが始まった。イルカ漁を長年やっていた。アイヌ民族生存捕鯨の復活をめざす。モベツ川河口で kamuy chep nomi (サケ迎えの儀礼)を10年ほど前から復興、実践している。
  • アイヌ民族漁業権の復活、森林保全も提言。
  • さっぽろ自由学校「遊」のESD(持続可能な開発のための教育)の取り組みの一環で畠山さんと出会う。
  • 2010年2月、紋別で地域ワークショップを開催。生態系保全とアイヌ民族の権利復活を結びつけるビジョンを共有。
  • 同じ頃、豊丘川(モベツ川の支流)上流に産廃処分場の計画、畠山さんらの反対運動にもかかわらず2010年10?月着工(操業はまだ)
  • 2010年11月、野生種と思われるサケの遡上を発見
  • 2011年3月、公害審査会への調停を申請
  • 地域住民の理解と参加の不足、科学的根拠(説得力)の不足 → 住民参加型の調査をめざす
  • 明らかにしたいこと: 野生サケの遡上・産卵の立証、野生サケが生息できる河川環境であるかどうか、産廃処分場からの排水放流が河川環境にどう影響するか
  • 調査項目: 水質調査、周辺地域の歴史・文化についての調査(文献調査+アイヌ民族からの聞き取り)
  • 現状では、水質は良好。もうひとつの支流である元丘川(旧鉱山の沈殿池からの漏水あり)では汚染確認(上流に既存の廃棄物処分場あり)やモベツ川中流(旧鉱山の沈殿池からの漏水あり)では汚染確認【←★小泉さんからのご指摘をうけ、訂正しました。】
  • サケについては捕獲調査が出来ないことから野生種であることを確定できていない。
  • 2012年3月、公害防止協定の締結。アイヌ民族の漁獲【←★誤字訂正】に一定の理解。
  • 地域住民のあいだでのアイヌ民族の文化や先住権への理解は、まだまだ乏しい。市民調査を通じて、地元の理解も続けていきたい。

(以下、質疑応答)
・藤井石根理事: 汚染がはっきり確認された場合、どう対応していくのか。予防が大切、汚染がおきてから出来ることは限られているのでは?
 ── 小泉:操業がまだ始まっていないので、いろいろな手を尽くしたい。

・大沼淳一選考委員: 科学的根拠の部分が弱すぎる。パックテストでは水質調査の勝負にならない。野生サケの見込みも薄い。紋別川に大量にカラフトマスとサケの放流をしているので、遡上してきている可能性高い。野生サケの実証は、とりあえず捕獲して、尾びれのかけらを採取して、リリースすればよい。道との話し合いで実行可能な筈。
 ── 小泉:地元の専門科学機関との連携もまだできていない。野生サケであるとの感触は得られている。

・遠藤邦夫選考委員: 重金属などの調査は20万くらいで15項目ほど出来るはず。早急に実施を。

・細川弘明理事: ビジョン(アイヌ民族への理解)と調査の達成目標とを混同しないほうがよい。野生サケとアイヌの関わりという特色・固有性を武器に一点突破することが重要。

・藤原寿和選考委員: 水質についての詳細調査は急務。リテックの親会社(同じ会社)が廃棄物処理法違反をしていることが判明し、刑事告発をかけたところ。強制捜査も始まっている。そういう会社の工場なのだから操業許可を出すな、という運動の展開も必要。


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【第2報告】10:12-10:45
(2)FoE Japan 開発と金融と環境チーム(波多江秀江さん)
ニッケル鉱山開発および製錬事業地周辺における重金属(六価クロム等)による水質汚染と現地コミュニティーの健康リスクに関する調査

  • 山の中腹でのリオツバ・ニッケル鉱山開発。大平洋金属と双日が出資(コーラルベイ・ニッケル事業)。
  • 先住民族パラワンの生活地。焼畑、ヤシ栽培(現金収入源)、漁獲。
  • 当初は、高品位鉱のみ日本に輸出、低品位鉱は利用していなかった。その後、低品位鉱も精錬することになり、新居浜(住友)へ輸出。
  • テーリングダム(鉱滓池)の上澄み液を海に放流。併設されている石炭火発の環境影響もある。
  • 先住民族が薬草採取していた丘、石灰石(中和剤として精錬所で使用)の採石場として開発・汚染された。
  • ニッケルは重要資源ということで、国際協力銀行や日本貿易保険などの支援をうけている。
  • 現地NGOからの告発(環境破壊、健康被害)をうけて、2006年から現地調査。2009年には133世帯の聞き取り調査。咳・頭痛・皮膚病などの健康変化(鉱山操業後)を確認。薬をのんでも治らなくなった。
  • 2009年7月から、原因特定のための水質調査(河川と井戸水)。採水して日本で分析。高木基金からの助成をもらう以前に、すでに4回、水質調査。日本の環境基準(六価クロム 0.05mg/L)を超えていることを確認。しかし、フィリピンの排水基準は、新設の場合 0.1mg/L、既設の場合 0.2mg/L ( → その後の調査で 0.4を超えたケースも、0.2も頻繁に超える)。
  • 日本の企業、役所との話し合いもしているが、なかなか進展しない。長期調査が必要 → 高木基金の助成で。
  • 川の底質の調査、トグポン川の上流・本流・下流の六価クロム分析(精錬所からスル海に至る水系)。
  • 六価クロムの起源は鉱山か、精錬所か? 鉱石のストックパイルからの雨水流出がひとつの可能性。鉱滓池のオーバーフロー水の排水経路からという可能性も。

(以下、質疑応答)
・藤原委員: 六価クロム以外に、健康被害の原因と考えられるものは? 日本や欧州の六価クロム汚染の事例(千葉県など)では健康影響を否定する報告が目立つ。ニッケル粉塵の健康被害については確認事例がある。

・細川理事: 開発金融の線からのチェック、JBICのほかに民間銀行のかかわりは? 銀行のSRIの基準は年々厳しくなっているので、そちらの線で歯止めをかけられないか。フィリピンは鉱山法が何度か改訂され整備されたが、守られていない。そういう事業に出資することの是非を不問に付す時代ではなくなっている。世界的に鉱山資源のピークの問題。以前は手をつけなかった低品位鉱まで開発するようになって、この事例もその典型。
 ── 波多江: 民間銀行からの出資はまだ把握できていないので、JBICとの交渉を重ねている。

・貴田晶子選考委員: 粉塵そのものが影響している可能性(咳など)。大気系の調査もしたほうがよい。
 ── 波多江:していきます。

・遠藤委員: 住民の飲料水は?
 ── 波多江:トブコン川・ツバ川の沿岸漁民(先住民族とムスリム)が多い。魚は減っている。昔は井戸水を飲んでいたが、いまは鉱山会社が2週間に1回 delivery water。その水から六価クロムが検出されたこともあった!

・大沼委員: このケースは普遍的な問題につながっている。各地のニッケル鉱山(住友系など)をみると、ラテライト鉱を掘ると六価クロムが出ることは確実。マングローブ海域への赤ヘドロ(鉄・ニッケル・クロム)の沈積は、世界的問題として認識すべき。


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【第3報告】10:45-11:16
カネミ油症被害者支援センター(共同代表:石澤春美さん)
厚生労働省実施『油症患者に係る健康実態調査』検証報告書の作成

  • 高木基金からは4回にわたり助成を受けている。感謝。
  • ダイオキシン被害としてのカネミ油症被害、国の救済がおこなわれていない。大きな被害があるのに埋もれている。カネミ倉庫からの賠償も裁判では認められたが、実際には支払困難ということで払われていない。
  • 被害者は離島など僻地の貧困地域。「安くて健康によい油」として普及、家族被害が多い。
  • クロロアクネ(塩素にきび)など初期症状は、厚生省調査では「治癒している」とされているが、内臓・骨・関節への影響などは続いている。日常生活にも困難。
  • 国からの仮払い金を返済しなければならない状況で、被害者は苦しんでいる。自殺者も続発。返済免除を求める運動をした。2007年6月、免除が認められた。しかし、これが唯一の救済。
  • ダイオキシン類の経口摂取という特殊性をふまえて、厚労省による油症認定患者1420名への悉皆調査が2007年におこなわれた。症状の全貌を把握する重要な調査になると思われたので、患者たちにも協力をよびかけた。厚労省のPTにさまざまな提案(被害者から、センターから)、とくに「自由記入欄」を多くすること、「家族構成」を尋ねること、など。羅列された症状にマルをつける方式では把握しきれない被害がある。
  • 同じ家族のなかで、認定/未認定が分かれている。未認定のほうが症状重篤であるケースもある。
  • 厚労省調査でわかったこと: 日常生活動作の困難71.4%、慢性的な倦怠感・しびれ・目眩・痛みなどを訴える人が70%、カネミ倉庫から認定患者が医療費を
  • しかし、自由記入欄は集計されていない。
  • 次世代被害(油を食べていない子ども・孫に出ている症状)と女性被害についての結果が、伏せられている。
  • 被害者199名から回答書のコピーをえて、検証報告を作成した。厚労省のデータの永久保存を求める。

(以下、質疑応答)
・遠藤委員: 国のデータは、特別な指定がないと廃棄されてしまう。水俣病の資料なんか沢山廃棄されてしまった。早急に指定させないと。
 ── 石澤: 急ぎ申し入れします。

河合理事: 賠償裁判で勝っても、被害者が救済されず被害が続くということがある。カネミ油症は残念ながら、そういうケース。「謝れ、償え、無くせ公害」という標語にあるように、制度的なところまで変えていかないといけない。
 ── 石澤: 被害者はダイオキシンの被害だということすら理解していないことが多い。議員なども事件自体を知らない。結婚差別などをおそれて、被害者が黙るケースもある。二世・三世については再度、訴えをおこすことも考えている。

藤原委員: 症状が悪化しつつあるという現状。国の被害が問われていない(被害者が長期化をおそれて取り下げた)。水俣の場合は法制化されたので、未認定に対する不服申立てができるが、油症の場合は根拠法が無いため申立てすらできない。未認定患者は裁判の準備をしているが、法的環境としては厳しい。社会の注目をぜひ!

石澤: 油症事件は棄民そのもの。こんなことが日本で進行しているということを伝えていく。聞き取り調査の結果を国会に持って行って、少しは反応があった。続けていく。


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【第4報告】11:16-11:47
六ヶ所再処理工場砲手放射能測定グループ(原子力資料情報室:澤井正子さん)
六ヶ所再処理工場からの放射能放出に関する調査研究

  • 高木基金から継続支援してきた案件
  • 六ヶ所工場自体は「自滅」しつつある現状、延期が続く「稼働開始」 ウラン分離、プルトニウム分離は試験終了したが、ガラス固化体製造のところで事故が続き、試験が止まっている。低レベルの気体・液体廃棄物は発生している。使用済み燃料の冷却もずっと続けないといけない。
  • 東通原発が稼働しているので、六ヶ所と東通の両方を測定。トリチウムの放流は確認したが、環境放射能レベルとしての有意な上昇は認められなかった。
  • 2011年度のデータでは福島事故由来のCs-134(核実験では生成されない同位体)の有意な増加。福島から350キロ。Cs-137も急激に上昇(2年芽松葉で20〜30Bq/kg台、1年芽松葉でも3〜4Bq/kg台)。
  • 海岸の砂と松葉を毎年測定、セシウム、カリウム、炭素を測っている。松葉では福島事故で明らかな変化があったが、海砂についてはウラン系列・トリウム系列・Cs-137とも大きな変動みられず。再処理工場がもし稼働しても、海砂調査では把握できない恐れ。

(以下、質疑応答)
・澤井: 青森は3月よりも4月に汚染されたという感触をえているが、これは今後検証が必要。福島放流の汚染水が拡散してきたものと、空中のプルームが海に降下したものと、両方の効果がある。

・大沼委員: 松葉の数字のばらつき、ちょっと大きすぎる。福島からの距離を考えると、サンプリングの問題(1年芽と2年芽の確実な区別、試料採取の際の汚染、など)もあるかも。海砂のK-40は石に入っている。Csは土につくので、海砂であまり検出されないのは最初から分かっていたのでは?
 ── 澤井: 海水のほうが溶出しやすいという面もあったので、検証したかった。今後は採取の手法など、見直す。

・大沼委員: ゲルマ(ニウム半導体検出器)でないとダメというわけではない。数ベクレルのオーダーで、Csに特化すればNaI(シンチレーター)でもとれる。ゲルマで標準資料を確保しておいて較正すればよい。

・細川理事: 国立大や国立研究機関でゲルマを使わせてくれる研究者がみな定年に近づいているという問題は、実は深刻。今後の対応にむけて、協力してくれる機関・研究者(より若い世代の)を確保する必要。


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【第5報告】11:47-12:20
海岸生物環境研究会(山下博由さん)
原子力発電所周辺における海岸生物相の研究

  • 塩素処理、温度処理により、幼生の死滅。
  • 国・都道府県・電力会社がやっている海の調査の内容 eg.佐賀県水産課(底生生物の調査) しかし、生データが公開されているものは少ない。ウェブで公開されている情報は不十分、実感しにくい内容、種の同定が不十分、など問題多い。
  • 「原発の海」の実態を端的に知る調査を試みた。定性調査(生物種の特定)と定量調査(25cm x 25cm のコドラードで9試料ずつ各地で採取)。藻場の状態にも留意。「一目でわかる写真」の記録に努める(生物多様性の状態がぱっとわかるもの)
  • 環境指標種の絞り込みを検討、市民調査で使いやすいものであることにも配慮。市民が実感できる情報が大切。
  • 玄海原発 ── 放水口860m南地点の池崎低潮位と高潮位とで調べ、26箇所調査。貝類だけでも50spp以上あった。希少種も確認。同4キロ地点の福浦でも調査。
  • 伊方原発 ── 放水口700m東地点・亀浦で調査。ヒメアワモチ(環境のいいところにしかいないsp)いた。クロピンノなどの希少種も確認。
  • 温排水等による海岸生物相への明瞭な影響は確認できず。イボニシ、イソニナなどの新腹足類の減少の可能性はある。地形・波浪・塩分・栄養などの要因があるので、原発の影響を特定しにくい。
  • 「生物多様性の減少」を検証することは可能か? 以前の状態のデータがない場合がほとんど。写真によるコドラード調査の可能性。はがすと時間かかるので、写真で多くのデータを集める。第三者の評価もしやすい。条件をつけることでデータのとり方が様々に調整できる。市民調査に適した方法ではないか。

(以下、質疑応答)
藤井理事: 要するに何がわかったのか?
 ── 山下: 塩素の影響は限定的。

鈴木雅子さん: ウミ草などの放射能測定は?
 ── 山下: していない。

遠藤委員: 写真調査では貝の把握しかできないのでは? もっと「弱々しいもの」(ねばねばしたようなやつとか)のほうが環境影響うけやすいのでは?
 ── 山下: 微小生物の状態が重要であることは、ご指摘通り。肉食性貝類の状態をみることで、エサである微小生物の状態も推測できると考えている。

フロア男性(ごめんなさい、お名前を聞き漏らしました): 福島原発から大量に化学物質も放流されている。事故炉でない場合、化学物質の放流の管理はどうなっているのか?
 ── 澤井正子さん: 発電所は公害防止協定を結んでいるので、化学物質も管理されている。しかし、ウェブサイトなどで公開しているのは放射能のことが中心。

大沼委員: 温排水の拡散比をふまえてサンプリング場所を決めないとだめでは? 生物多様性を種類数だけで見て行くのは限度がある。環境変化に強い指標種に注目する手法(eg.放射能の蓄積をはかる)も考えては。

フロア女性(ごめんなさい、お名前を聞き漏らしました): 温排水で養殖をやっているところでの調査もしてほしい。

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15分遅れで午前の部、終了。昼食休憩。12:20-13:10

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午後の部、再開。
【第6報告】13:10-13:33
チェルノブイリ救援・中部(河田昌東さん)
チェルノブイリ原発事故被災地におけるバイオエネルギー生産と農業復興の試み

  • この調査は福島事故以前に始まったもの。福島事故の発生により、チェルノブイリの農地での成果を日本に生かすという喫緊の課題も生じた。
  • ウクライナ、ジトミール州(北部が汚染地域)ナロジチ地区での試みを報告。
  • 支援の当初は、医療面での支援。病院などで治療効果は出てきた。しかし、良くなって帰宅するとまた悪くなってしまう。村でとれる飲食物の放射能のせい。
  • 医療援助は継続しつつ、汚染土壌の浄化と農業復興を視野にすえた支援に。菜の花プロジェクトなど。
  • 2007年から新しいプロジェクト。バイオレメディエーション(bioremediation: 植物によるセシウム、ストロンチウムの吸収、土壌浄化)、ナタネによる土壌浄化とバイオディーゼル利用。
  • ナロジチは農業畜産が中心で、飯舘村と似た面はあるが、汚染濃度は飯舘村のほうが桁違いに高い。
  • セシウムは20cm、ストロンチウムは40cmまで沈んでいる。ナタネ油の放射能を測ると、油には放射能が
  • ナタネ植物体のセシウム分布、種子に多い。根にはあまり残らない。ストロンチウムは茎に多い。
  • 5年間の実験の結論として、ナタネによる短期間の土壌法かは不可能。年間3〜5%の減少率。
  • しかし、新たな発見として、ナタネ栽培の裏作(ライ麦、小麦、大麦、蕎麦)は汚染がきわめて少ない。食料、家畜飼料として利用可能。ナタネ、移行係数の低い作物、それ以外の作物という順序に輪作し、またナタネに戻すというサイクルで農業復興が可能。
  • バイオエネルギー農業として、バイオガスの生産。セシウムはバイオガスの排水に移行、活性炭とゼオライトなどで吸着できた。廃水中の無機イオンが残る問題。希釈槽などで対応、現在データ収集中。
  • 2011年6月、落雷で管理棟焼失!というハプニングもあって、びっくりした。

(以下、質疑応答)
藤井委員: 植物による除染は無理という結論か?
 ── 河田: バイオレメディエーションの効果があったという論文はたくさんある のだが、すべてポット試験。実際の汚染地で実験したのは私たちが最初。植物では浄化まではやはり無理だ、というのが私たちの結論。しかし、輪作技法などで対応する余地のあることが分かったのは成果。

フロア男性: ヒマワリはどうか?
 ── 河田: ヒマワリでの吸収はできない。ヒマワリの水耕栽培で効果をあげた実験例があるのみ。水耕だから、当然の結果。それが過大評価された(福島で過大な期待をもって伝えられた)のは不幸。

(ゼオライトについての質問)
 ── 河田: 吸着剤としてのゼオライトは長く使えるのが利点。

貴田委員: 土壌中の水溶性セシウムの定量的な評価は?
 ── 河田: 事故からの時間で違ってくるので、チェルノブイリと福島で単純な比較はできない。土壌中の水溶性セシウムで吸収できるのは数%レベルに過ぎない。1年間1センチの浸透。珪酸分の多い粘土質土壌に強く吸着している。

細川理事: 福島でのストロンチウムの評価は?
 ── 河田: チェルノブイリの60分の1くらい。なので測定が難しいのは確か。チェルノブイリではストロンチウムによる健康被害が多かったが、福島ではそれほどの影響は出ないと見てよいのでは?


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【第7報告】13:33-13:58
長島の自然を守る会(高島美登里さん)
上関原発予定地周辺の生物多様性の解明と普及活動

  • 福島事故を受けて、上関の状況も大きく変わった。埋立工事中断。県内市町村から中止や凍結を求める決議が続々。
  • 上関町「地域ビジョン検討会」はじまった。しかし、町長選では反対派が勝てず。
  • 2011年度の調査実績、大きく3つ。オオミズナギドリの採餌領域の解明、宇和島のカラスバトの繁殖確認、カンムリウミスズメの繁殖可能性のあらたな確認
  • オオミズナギドリ(山口県では絶滅危惧種)宇和島で毎年繁殖。親鳥にGPSしょわせて追跡。ヒナの生態、おもしろい。生まれたから3ヶ月は穴のなかで過ごす。親鳥の1.5倍まで太る! 穴から出られなくなる。2ヶ月は親鳥がせっせとエサをはこぶ。残り1ヶ月は断食、親鳥はニューギニアに行ってします。ヒナは痩せてから穴を出る。
  • 宇和島のオオミズナギドリの採餌域は極端にせまい。長距離・長時間の採餌旅行をしない。逆に、瀬戸内海の西部海域は良質なエサ場である、ということ。(ほかの海域は資源が乏しいということか?)
  • 繁殖成功率も低い。ネズミなど捕食者もあるらしい。地域個体群の絶滅のリスクは高い。原発の影響も懸念される。
  • 次に、カラスバト(国の天然記念物、IUCNの準絶滅危惧種)。宇和島では初確認。
  • カンムリウミスズミ、中国電力は月1回の確認しかせず、観測データの精度が低い。「確認せず」と中電が報じた月でも市民調査では確認されている。国際シンポジウムを開催。太平洋海鳥G.P.(研究者グループ)と日本海鳥G.P.が原発工事中止の要請。
  • 上関での魚類調査(愛媛大学)グループと海鳥調査グループで連携調査をこれから進める。
  • 原発の埋立工事に使われる予定だった船、埋立中断でういていたのを私たちが買って、観測船にした。船の役割が180度運命転換!
  • 原発に頼らない町づくりの一環として、「おまかせパック」(新鮮なおさかな)産直提供。
  • ユネスコの「生命圏リザーブ」(Biosphere Reserve)や世界遺産への登録をめざしたい。

(以下、質疑応答)
青木将幸選考委員: 山口知事選挙に飯田哲也さんが立候補したというニュースが今とびこんできたが、どう評価しますか?
 ── 高島: 地元運動体としては知らなかった動きなので、よく分からない。脱原発という方向性は共有できるが。

高島: 漁師さんにプライドを取り戻してもらうということが大事。「おまかせパック」はその起爆剤に。

遠藤委員: 県がカンムリウミスズメなどのアセス調査をするということで、工事が延びている。その後、どうなった?
 ── 高島: 上関で調べた小さな貝が、環境省の改訂版レッドデータに載る可能性ある。そうなると、またアセスのやり直しで、また工事は延びる。


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【第8報告】13:58-14:25
ピープルズプラン研究所(山口響さん)
在沖米海兵隊グアム移転がグアムと北マリアナ諸島に与える影響の研究

  • グアム移転計画の進捗状況、環境アセスの最終案ができたところ(2011年7月)、2011年12月、米議会がグアム移転予算(2012会計年度分)を全額削除。2012年4月、日米両政府が再編見直し案を発表。移転規模縮小(5000人)。北マリアナ諸島に米日協働の訓練施設。日本の費用負担のうち、JBIC融資32.9億ドルを撤回。要するに日本が出す予定だった半額をキャンセル。これは相当大きい変化だが、日本のメディアは報道していない。
  • 今後、環境アセスをやりなおす可能性あり。規模縮小にともない、施設の配置も変わったので。最短でも8年かかる。
  • 計画が遅れていること自体がもたらす問題もある。地元社会にもたらす影響。遅れの要因は、計画そのものの杜撰さと現地社会の抵抗の2つ。
  • グアムだけでなく、北マリアナ諸島(サイパン、テニアン、ロタ島など;米国自治領)への影響も調べていく必要が出てきた。今回はテニアンに注目、インタビュー調査。
  • テニアン島の3分の2は米軍の土地。北3分の1は米軍占用地、中3分の1は遊休地、リースバック(米軍の所有地を島民に使わせる状態)、住民3千人が住んでいるのは南3分の1。
  • 移転も環境アセスも「やるやる」といって実際にはやっていない。誰の得にもならない。空手形に翻弄される地元業者。グアムでもテニアンでも同様の状況。
  • テニアン市長へのインタビュー。米軍が利用するというので、ずっと待っている状態。使わないのなら返してほしい。やや、あきらめムードだった。米軍増強に期待しつつ、「結局なにもおこらないのでは?」との疑念をぬぐえず。島の土地利用のマスタープランが描けない状況。
  • 賛成派も反対派もどちらも利益をえられないまま時間ばかりが過ぎている状態。米日政府とも、計画自体の中止という選択肢を論じない。

(以下、質疑応答)
問: 米国政府から基地交付金のようなものはあるのか。
 ── 山口: 貧しい自治体への交付金という形ではある。
問: 日本のおカネは何に使われている。
 ── 山口: 消防署をつくったり、いろいろな庁舎を建てたり。
問: グアム政府の権限は?
 ── 山口: 法的な拒否権はない。

鈴木雅子さん:「誰をも利していない」というが、計画が延びていることで、遊休地の生態系が回復している、ということはないか?
 ── 山口: グアムとテニアンで事情が違う。グアムはすでに米軍の大きなプレゼンス、テニアンの場合はもともと遊休地が多い。グアムについては、遅れによる自然回復というのはあるかもしれない。テニアンではそういうことはないだろう。

東条さん: 海兵隊はどこへ行こうが、軍隊ですので反対です。その意味では、沖縄の基地を県外国内移設というのも賛成できない。この点をはっきりさせてグアムやテニアンのことを考えないと、隘路に迷い込むのでは? テニアン島は日本兵が大勢餓死しているし、原爆搭載機が飛び立った島だし、そういうところに日本のおカネで米海兵隊が行くという話は、戦中派としては、戦慄を覚える。

事務局(菅波):今後どのように取り組んでいきますか?
 ── 山口: 核の問題をあらためて見直していきたい。


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【第9報告】14:25-14:55
彩の国資源循環工場と環境を考えるひろば(加藤晶子さん)
彩の国資源循環工場による環境汚染調査

  • 産業廃棄物の中間処理施設。「リサイクル施設」という美名で語られる。2006年から稼働。
  • VOC(揮発性有機化合物)の測定調査。測定(大気補足)の様子を写真で紹介。グラフをつくるのが大変!夏冬それぞれ、昼と夜のパターンの違いをとらえたかった。
  • 自動車排ガスや家庭暖房用プロパンガスなど、測定ノイズもあって苦労した。
  • 廃プラスチックの中間処理、キシレン、フェノールなどのピークが出てくるところが、通常の大気汚染と異なるパターン。
  • 冬場で特徴的なパターンが出た測定地点(北東)もある。杉並のプラスチック処理施設と似たパターンが出てくる。
  • 夏場は北東の風、冬場は北西の風、なので冬に汚染ピークが目立つかと思ったら、夏場のほうがはっきり出る傾向もある。予想とちがって戸惑っている。
  • 悪臭を訴えていた方のお宅(南西)での測定結果。年中を通して、昼も夜も汚染物質ピークがはっきり読み取れた。冬の夕方・夜がとくにひどかった。
  • 異なるパターンごとに比較しないと分からない。似たパターンについて、季節と時間帯と位置を考慮。
  • 地元(三ヶ山周辺)での市民向け報告会の様子。

(以下、質疑応答)
藤井理事: グラフの読み方をもう少し説明して。
 ── 加藤: 横軸はリテンション時間(物質を染みこませていく)。津谷裕子アドバイザー:細い管を通りぬけていく所要時間で物質を識別するという、クロマトグラフの方法。

大沼委員: 測定時の風向きは? それをいれないと物語にならない。
 ── 加藤: 記録してない。季節ごとの顕著な風向との対応が出なかったので、困った。
 ── 津谷裕子アドバイザー:地表の風向きは頻繁に変わる、上空の風向とも違う、不動層もある。リサイクルセンターから出てくる化学物質は重いので、滞留しやすい。気温との関係のほうが大きい。夏場は発生量も多くなる。その影響もあるだろう。化学物質の動きはとても複雑。
 ── 加藤: 複雑ながらも分かってきたのは、「悪臭」と工場由来の物質とが相関しているということ。

大沼委員: 風向もふくめて、住民自身が測るという姿勢は大切。四日市公害などでも手作り吹き流しで取り組んだ。住民の参加意識が育つ。首都圏で発生した大量のごみが田舎に持ち込まれる、おカネが一緒に動いて、住民が黙り込む、という構図。市川あたりの放射能汚染焼却灰が彩の国に持ち込まれている、という現状もある。
 ── 加藤: 埼玉県は全国でもっとも産廃を受け入れている。東京のごみが多い。中間処理ということで、そのあとの灰は東北に運ばれている。まさに南北問題。

水野玲子さん: 健康被害の状況は?
 ── 加藤:過敏症のような症状、お孫さんのアレルギーなども。

藤原委員: 地形が複雑なところなので、標高も考慮して3次元で見て行く必要がある。 ── 加藤: 工場は高いところ(三ヶ山)、住宅は低いところにある。


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【第10報告】14:55-15:45
化学物質による大気汚染から健康を守る会・VOC研(津谷裕子さん)
合成樹脂系VOCの健康影響実態調査

  • 5年間続けて助成をいただいた。そのまとめを報告します。
  • 通常の自動車排ガスによる大気汚染のクロマトグラフ。ベンゼン、トルエンのピークがあって、そのあとはなだらか、とうのが通常のパターン。
  • それ以外の異様なパターンが観測される事例。団地での壁面防水工事、プラごみ中継施設周辺(杉並)、室内空気の汚染(近隣工事の前後)、パソコンと高周波電圧健康器具、樹脂利用製品からの揮発。
  • 杉間伐材(壁面材)による室内空気改善、クロマトグラフのピークの解消が確認できる。
  • 農薬(除草剤?)散布の前後の変化も明瞭にとらえられた。
  • 化学物質過敏症(CS)患者の脈拍と環境大気(屋外/室内)に応じた変動もはっきり捉えられた。
  • イソシアネート(集成材、断熱材、接着剤などなど、多用途)、症状は、目・気道・皮膚・呼吸器・中枢神経にさまざまに出る。
  • 従来の公害とちがって、VOCについては私たちが加害者になることもある。あなたが注文した工事で近所の人が塗炭の苦しみを味わうことがある。
  • わかっていない物質がたくさんある。「先生」などという態度ではなく、一から知る態度が必要。

(以下、質疑応答)
水野玲子さん: イソシアネートは、馴染みのない名前だが、広範に使用されており、今後、第二第三のアスベストのような事態になる恐れあるので、注目してほしい。

津谷: 経産省のリスク評価委員会では、イソシアネートは「環境から検出されない」として評価対象からも外してしまっている。ガスクロマトグラフのピークとしては出てこない(炭素数12までの炭化水素しか検出できない)。検出方法はあるが、一般的な方法で簡便にはできない。米国では、試薬を濾紙に染みこませておいて変色を見る方法など、イソシアネートに特化した簡易法がいくつか開発されている。ただ、試薬の寿命が短い(2週間くらい)なので、輸入しても使える期間が制約される。日本で作るしかない。

フロア男性(環境カウンセラー): イソシアネートは20年前から使われている。毒性は非常に強いが、生活と密着して多用されている。工場ではかなり厳格に管理されている。環境中には出ない(出ても反応して消えてしまう)という想定がされている。簡易測定はかなり困難。
 ── 津谷: 外国での基準値(限界発症濃度)を見ると、pptの桁。米国の国立研究所が測定法(液体クロマトグラフ)を推奨しているし、いくつかの簡易測定法も確立されている。医学研究では、相当低濃度での発症について分析した論文も出ている。非常に大きな差があり、歯がゆい。日本のお医者さんは、まったく知らない。

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15:30-15:45 休憩

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【第11報告】14:45-16:09
北限のジュゴンを見守る会(鈴木雅子さん)
草の根市民による沖縄のジュゴンの保護活動の構築

  • ジュゴン(世界に5万頭以下)、ほとんどは南方の水域、沖縄が北限。孤立した個体群。天然記念物、絶滅危惧種IA類(県、環境省ともに)。個体数3〜10?。辺野古アセスでは「最小個体数3」
  • 「絶滅の恐れのある野生動物の保存に関する法律」(環境省)の指定をいまだに受けていない! 要請を繰り返しているが、基地問題がネックになっていることは明らか。環境省の及び腰。
  • 西海域(古宇利島周辺)と東海域(金武湾)とで確認、東西海域を行き来している? 辺野古水域でも食み跡あり。これらの水域を一体的に保護する必要。
  • 沖縄のジュゴンを脅かす4つの問題 ── 混獲、海草藻場の減少、生息地への基地移転、不発弾処理(海中爆破)
  • 沖縄のビーチはほとんど「整形美人」。生物のいない人口ビーチ。
  • ジュゴンの調査でジュゴンにストレスを与えてはいけない。もっとも圧力の低い方法として、食み跡のモニタリングを採用。マンタ法とライントランセクト法を組み合わせる。10m毎のコドラート。食み跡の本数、海草の種類などを見る。 → 手引きシートを作成した。
  • 底質の特徴、ジュゴンは根ごと食むので、柔らかい底質の水域が好まれる。台風などあっても、エサ場は安定している。2年間の調査でも、食み跡の分布傾向に大きな変化なし。
  • 2年間で、ライン総延長20キロ近くを調査。密集域51箇所(2010)、31箇所(2011)。のべ232名が調査に参加。
  • 沖縄では、ジュゴンとウミガメが一緒に泳いでいることが多い。同じエサを食べる。
  • 防災護岸工事も予定されており、なんとか交渉して止めている状況。米国での裁判、研究者からのさまざまな指摘、要請。
  • なぜ辺野古にジュゴンがくるか、地下湧水との関係も注目されている。湧水を断ち切らない形での護岸工事の代替案を出して、交渉中。
  • いまの状況では、いくら頑張っても、沖縄個体群は絶滅する。しかし、環境を保存・復元できれば、他の水域のジュゴンが来て住むこともできる。
  • 実は、今日、沖縄県議選。いま野党多数。与党多数になったら辺野古についての知事の態度は変わるだろう。辺野古で基地反対に尽力してきた玉城よしかず候補(現職)が当選できるかどうか、野党の対立候補が3名も出ているので厳しい状況。【6/11追記: 玉城議員☆当選。】


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【第12報告】16:09-16:39
諫早湾アオコ研究チーム(梅原亮さん)
諫早湾干拓調整池におけるアオコの大発生とアオコ毒の堆積物および水生生物への蓄積と健康リスク

  • 調整池の富栄養化でアオコが発生、とくに有毒の種類、強い肝臓毒性。海外では死亡事例も(ブラジル、カナダ)。日本では人間の被害は確認されていないが、水鳥の大量死事例あり。
  • 調整池(閉めきり堤防の内側、ほぼ淡水)、定期的に排水。調整池のなかで有毒アオコが増殖中。年間4億トン排水、諫早湾にもアオコ流出。調整池内のボラや堤防近くのマガキに、ミクロシスチン(アオコ毒)の濃縮。
  • 水、泥、ベントス(底生生物)を採取し、調査。
  • 水中のミクロシスチン濃度。アオコの発生量と対応して水中濃度も高まっていること確認。堆積物(泥)でも同様。梅雨には雨と日照減少でアオコ減る、ミクロシスチン濃度も下がる。
  • 調整池からの排水の動画再生、塩分の薄い水が湾の表層をすべるように広がっていき、沈降する。排水の影響は諫早湾全体に及ぶ。ミクロシスチンも(調整池の10分の1くらいのレベルで)確認。冬は底泥内のミクロシスチンが再懸濁されて、排水されるので、夏冬通じて、諫早湾に毒素が流出している。
  • 堆積物のミクロシスチンの水平分布、予想外に広がっていた。湾外の有明海でも確認。排水のときに一気に広がる。ベントスはつねに毒素にふれる形。
  • 堆積物内での濃度とベントス生体内での濃度とが対応しているとデータからは読み取れる。肉食性ガザミ( → 蟹味噌)からもミクロシスチン検出。安全とは言えない。
  • 年間を通じて毒素が流出していることが判明。マガキについては、いまはまだ低い濃度だが、経口摂取は控えたほうがよいだろう。継続したモニタリングが必要。

(以下、質疑応答)
遠藤委員: 小潮のときに排水、有明海の左回りの海流、などを考えると、有明海の南の方に毒素がたまる。北のほうを重点的に調査していたように見えたが?
 ── 梅原: たしかに南に溜まると考えられる。調査地点は、大学の別の調査の船に便乗している都合で、北のポイントが多い。

藤井理事: ミクロシスチンは分解しないのか?
 ── 梅原: 分解菌はある。

問: ボラを食べる上位種は? 東京湾ではスズキがボラを食べるが?
 ── 梅原: 諫早のボラは70cmくらいあって、巨大なので、たぶんこれを食べる魚はいない。スナメリがもしかしたら。しかし、やはり人間。

山下博由さん: 地元の食生活を考えると、かなり衝撃的なデータである。どうやって発表していくか。漁業者への配慮も。
 ── 梅原:漁師からは「俺たちが傷をうけないことには、何も始まらない」として、データの公表は了解してもらっている。

菅波: アオコは開門すればすぐに解決する問題。調整池の淡水を農業用水にしていることがネック。裁判では開門命令がでた(今年12月までに)が、開門反対派は頑なで膠着している。漁業者は、マガキのミクロシスチン濃縮の実態もみずから開示して、開門を求めている。
 ── 大沼委員: もし開門しないのであれば、長崎県はミクロシスチンの濃度チェックをする義務がある。
 ── 菅波: 長崎県は「開門絶対反対」の立場を崩していない。


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【第13報告】16:39-17:12
山下正寿さん
ビキニ水爆実験被災船員の実態調査と事件の実相解明


  • ビキニ被災した漁船、全体の3分の2弱が高知県の船だった。
  • ひとつの船の乗組員の健康状態(聞き取り)調べるのに、だいたい3ヶ月かかる。各地に四散しているので。新聞記者が協力してくれて、なんとか追跡できた。現在の健康状態を探った。
  • この調査中に福島第1原発事故がおきた。漁村地域のがれき処理の関係者のことが心配だった。放射能のこと知らない知らされないうちに被曝する(つまり、ビキニ事件と同じことが起きるのではないか)と心配。
  • 昨年6月、茨城県大洗を訪問、まず漁協の専務理事を歴訪。驚いたのは、みな「何とかなるだろう」「何とかして欲しい」という発想。とにかく放射能についての情報が現地に入ってなかった。ビキニ事件のことは皆、知っていたが、福島事故とつなげてはとらえていなかった。
  • 福島の汚染水の放出、漁協の了解など取り付けていない。漁民はみな、海底の汚染を実感してる。とくにウニが駄目。獲ってない。
  • ビキニ事件では内臓から汚染されたので、茨城特産のアンコウなんかでも「肝が危ないですよ」と伝えると、「肝を食わなきゃアンコウじゃない」という返事。
  • 10月には相馬に行った。ここも情報、全然はいってない。「あんたが漁業調査に来た初めての人だ」と言われた。底曳きやってるから、瓦礫がどこにどう溜まるかは分かる。潮の流れで。
  • 漁に出られず、待たされているのが一番辛い。沿岸漁はしばらく駄目なので、高知などに来て、カツオ漁の研修を受けてはどうか、と提案した。後日、50人の若い漁民が遠洋漁業の研修に高知にきたので、嬉しかった。
  • 放射能は海水で薄まる、と水産庁は言う。ビキニでは薄まらなかった。海水温の差があると混ざらない。塊のまま移動する。高知の足摺岬の近くまで放射能水塊が流れてきた。福島沖は親潮あって、渦になって拡散する。そこはビキニの場合と違う。
  • (配布の図版)ビキニ、キャッスル作戦の降灰分布と汚染濃度分布。第5福竜丸のほか日本船16隻が船体汚染された。第5福竜丸では3〜5Svの被曝だったと推定。
  • 健康状態を調べると、甲板員の死亡率が高い。中にいた機関員は生存率が高い。ガンも多いが、脳腫瘍が目立つ。血管破裂による突然死も多い。今、診察データの分析を医師に依頼しているところ。

(以下、質疑応答)
細川理事: 乗組員が四散しているのはなぜ?
 ── 山下: マグロ船は船頭が若いのを確保して、組で乗り組んだが、腕の良い船員は引き抜き合いがあったので、あちこちの船に乗った。室戸船籍の場合、7〜8割は室戸の漁民だったが、残りは全国各地から。三浦岬も、船籍は高知でも全国から乗組員を調達していた。

山下: 第5福竜丸よりも長く現場水域に留まった船では、第5福竜丸よりはるかに死亡率が高い。生存者がいない船もある。久保山愛吉よりも先に死んだ19歳もいる。海水を浴びたり、海に入ったりしていた。

山口響さん: 米国の公文書で分かったことは?
 ── 山下:ブラボー実験で米国本土・西海岸も被曝した。日本の5倍。予測に反して東に流れたことが記録されていた。核実験は、観測網をはりめぐらせたうえで実施したので、放射能がどう流れたかは全部記録がある。

貴田委員: 乗組員の曝露量は分かっているのか?
 ── 山下: マグロは測った(100カウントこえたら廃棄)、人間は測っていない。船を測るついでに測ったこともあって、500カウントを超えた例も記録されている。4隻ほど測って、乗組員が病院送りにされ、こっそり検査していた。乗組員が抗議して、露見。その後、ほかの乗組員の検査はされなかった。政府は「第5福竜丸だけの被災」にしたかったのだろう。厚生省は乗組員の検診をすべきだったのに、していない。第5福竜丸の乗組員には「見舞金」を渡して、ほかの船から妬ませ、孤立させた。声をあげにくくした。今後福島への対応のあり方が同じようになるのではと危惧する。


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【第14報告】17:12-17:47
野崎壱子さん
米国の工業的畜産と多国籍アグリビジネス支配に対抗する市民運動(サステナブルフードムーブメント)の成果とその手法


  • 工業的畜産の問題にとりくむ米国のリーダーのもとで研修。Small Planet Institute (SPI)昨秋、1ヶ月滞在。
  • 工業的畜産とは、大量の家畜を身動きできないほどの密飼い・密閉飼いする。病気になりやすいので、抗生物質やワクチンを問うよする。短時間で太らせるため、穀物飼料を大量に与える。世界では牛・鶏・卵の約7割、豚の5割が工業的畜産による。日本では比率はもっと高い。正確な統計は無いが、ほとんど9割に及ぶ。
  • 工業的畜産の問題点は多岐にわたる。GM飼料によるアレルギー、抗生物質多用による耐性菌の発生、抗生物質の効かない新感染症の発生。飼料として穀物を大量に消費sするため、人間の飢餓の拡大(食料不足)。糞尿による土壌汚染、悪臭、メタンガスによる地球温暖化。動物福祉からも問題。低賃金・長時間労働という労働者福祉の問題もある。
  • 工業的畜産で特に問題とされているのは、化学物質の大量使用。抗生物質、遺伝子組み換え飼料、ホルモン剤などの多用。子牛枠、豚の妊娠枠、鶏のバタリーケージなど。日本では成長ホルモン剤は禁止されているが、分娩調整や発情させる目的でホルモン剤を使用することは認められている。
  • 米国で2000年頃からサステナブルフード運動が顕著。BSE問題の影響と、9.11事件の影響。後者は「食料テロ」への意識をうみ、食の安全を見直す機運が高まった。
  • 研修先のSPIの代表をつとめる母娘、フランシスとアンナの著書、Diet for a Small Planet(フランシス1971)、Diet for a Hot Planet(アンナ2010)。2012年にはNation誌とSPIが共同で「What next for the Global Food Movement」という特集を編んだ。サステナブルフード運動の10年間の成果から今後の展望を論じたもの。
  • サステナブル運動の成果として、学校食堂や給食でのジャンクフード禁止。子どもの肥満や生活習慣病が問題かしたので、工業的食料生産が批判されるように。
  • O-157汚染、とりわけハンバーガーの挽肉パテが問題となり、持続可能な畜産による肉への支持が高まった。
  • 2000年代後半、米国の食の意識・習慣に大きな変化。ファーマーズマーケットへの支持、CSAの拡がり、自然食チェーンの成功など。フランシスは(ヴァンダナ・シヴァとのシンポジウムにおいて)「食品に重点をおいた強力な社会運動が起きた」と総括、「次のステップへ進むときが来た」と強調。
  • 運動のこれからの課題。一般社会への浸透が不十分、工業的畜産と社会問題(健康・環境・飢餓問題)との関連性についての認識が不十分。
  • サステナブルフード運動をさらに展開させる「フードメディアプロジェクト2011-2013」がアナ(Anna Lappe)を中心に構想されている。地域の食のリーダー300万人(連携する諸NPOの会員総数?)を対象に、メッセージを徹底。手法としては、オンラインビデオの作成、草の根ワークショップ、ウェブサイト、白書編集など。
  • 日本の状況を改善するメッセージをどう発していくか。実は原発事故が逆風になっている面がある。皆の頭を放射能汚染のことが占めている。松山市の給食では、私たち市民運動の要請に市が反応して、給食の安全性を確保するために放射能測定をし、食材も選ぶという姿勢がとられた。牛肉(従来は栃木産)・牛乳(従来は北海道産)をいずれも愛媛産に切り替えることになったが、飼料は「国産では不安」ということで輸入飼料になった。お母さんたちのあいだでも「それで安心」という反応。喜んでよいやら、悲しむべきやら。
  • しかし、米国のフランシスは「フード運動がかつてないほど盛りあがった時代」と楽観する。

(以下、質疑応答)
藤原委員: CSAとは何?
 ── 野崎: Community-supported agriculture、日本の「提携」運動に近いイメージ。前払いで農家を支える。

竹本徳子委員: 食に関しては日本の試みのほうが米国よりも先行している筈。若いあなたが米国の運動に学ぶところが多いと感じたのは、なぜ?
 ── 野崎:たしかに米国のほうが状況は悲惨で、問題は多い。だが、それだけに対抗運動の動きも大きい。食品添加物の規制などでは、日本よりも進んでいる。たとえば、加糖ブドウ糖、トランス脂肪酸の規制など、日本より進んでいる。日本では規制されていないし、何が問題なのかという認識も薄い。

藤井理事: 映画『フード・インク』を見て、面白かった。O-157のような問題は、毒性のせいか、それとも人間の抵抗力が弱まったせいか?
 ── 野崎:抵抗力が弱まったかどうかは分からない。毒性は非常に強い。工業的畜産がもたらす不衛生さが問題とされた。

グリーンピース・金繁典子さん: GMについての米国での意識は?
 ── 野崎:これは日本と違う。自然食品店で売ってるパンでさえ、GM小麦を使っている。

瀬川嘉之さん:「有機畜産」といっても、実際はいろいろ。どの程度の率で存在していると言えるのか。 ── 野秋:数量的には把握できていない。

大沼委員: SPIの組織について、スタッフ数や資金源は? ── 野崎: 資金については、あまり話してくれなかった。アンブレラ団体が別にあることは確か。食の12分野毎に電話帳のような分厚いdirectoryがあった。

細川理事: 食の運動が「ノアの方舟」的に少数先鋭化していくことの隘路にも注意すべきでは? 工業的畜産への代替策として提案されているもので、すべての人・食品を賄うことができないという現実にどう向かい合うか。
 ── 野崎:「ノアの方舟」的になっている感はたしかにある。しかし、SPIのフランシスはきわめて楽観的に「We can do it!」と言う。


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【第15報告】17:47-18:20
玉山ともよ さん
米国ニューメキシコ州文化財として認定されたテーラー山における「ロカ・ホンダ」ウラン鉱山開発問題


  • 住友商事40%、カナダのストラスモア Strathmore社60%の出資、JOGMECの助成金(海外ウラン探鉱)
  • 地元の先住民族は開発を阻止する目論見としてテーラー山を文化遺産として登録。テーラー山のまわりに約20の開発申請(ウラン鉱山、精錬所など)
  • ニューメキシコ州のグランツ・ミネラルベルト(いわゆるFour Cornersの南東)、かつてのウラン鉱山地帯、残土・鉱滓による汚染・被曝・健康被害のある地域 → MASE(安全な環境なための多文化同盟)を結成してこれらの問題にとりくんでいる。比較的新しい団体。
  • 「聖地開発」をめぐって ── 経済的価値か文化的価値か、という二項対立の枠組み、開発サイドの目的や目標に逐一対抗するロジックを束ねる概念としての「聖地を守る」。
  • 反対運動は先住民族にとっては「生存のための闘い」であるが、開発側はそれを「カントリーリスク」として見る。リスク解消のための公費注入、という動きになる。
  • 聖地開発で特にいま問題となっているのは、地下資源開発と水。地上施設(ウラン鉱山・精錬所【←★修正】による水系の汚染、石炭採掘にともなう大量の水消費と廃棄(ホピ居留地のピーボディー鉱山の事例)、天然ガス掘削におけるfracking(水圧破砕)。原位置抽出法(ISL)による地下水汚染。
  • 南西部乾燥地域の先住民族にとって、水は死と再生の循環(死んで霊となり雨となって降りてくるもの)
  • ロカホンダ開発。実務はS社、住商・日本政府は出資。日本政府の公的資金がなければ開発は進まなかったと考える。助成金の名分は「地質構造調査」であるが、この地域の調査は、S社の前の会社が すべて ほとんど【←★玉山さんのご指摘により修正】 済ませていて、S社も住友も新しい調査はしない予定。【★玉山さん追記: S社も住友も新しい調査を行うためには、逐一州政府の鉱山資源局に許可を得なければならないので申請書の作成に非常に時間とお金がかかる。すなわち地質構造調査の前段階の許認可業務がほとんどで、物理的な地質構造調査の比率はおそらく非常に低い。】
  • 操業開始は2017と予定されているが、すでに株価値上がりなどで会社は利益をあげている。
  • 原発を再稼働させる → ウランの国際価格が上昇する → ウラン関連株の価値が上がる → ウラン開発への勢いが復活する。ここに、大飯原発を再稼働させてはいけない理由がある。
  • 福島事故後は、日本国内でのウラン需要がなくなって、海外への輸出が想定されている。しかし、そういうことにJOGMECの助成金が使われるのはおかしい筈。
  • ジャパンマネーによる開発にもかかわらず、日本の人が全く知らない。ステークホルダーになれていない。

(以下、質疑応答)
遠藤委員: 以前、採掘していた地域であらためて精錬するということ?
 ── 玉山:以前の開発はウラン価格の暴落で中断、どの会社も後始末しないまま残土や鉱滓を残して去って行った。精錬所が遠くにしかないので、あらたにこの地域に精錬施設を設けて、放置された鉱石の製錬やISLによる新規採取をするということ。 製錬する。製錬しないと取引売買される形のイエローケーキにならない。遠くに持って行ってはコストがかかるので、そのためロカ・ホンダ計画は、地下鉱山だけでなく精錬所建設も含めた開発計画。【←★玉山さんのご指摘により訂正・追加】 
【★玉山さん追記: おそらく放置されている鉱石や残土は製錬されずにそのままほったらかしになると思われます。ISLは、同じグランツミネラルベルト内の別の地区(チャーチロック等)で計画されています。】

細川理事: 世界的に同時進行しているウランピークによる再開発の動きの一環。株操作や公的資金などの支えがないと立ちゆかない産業になっている。
 ── 玉山: 公的資金の流れがきわめて不透明、市民の関与がそこに発生しえないことが問題。JOGMECの情報公開も減っているのではないか。

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16:20 プレゼン15件、すべて終了
菅波さん:今日の参加者は76名でした。

事務局長(高木久仁子)あいさつ

  • いま私たちは、とても厳しいところに来ている。産業・経済の曲がり角でもあり、市民の運動をどう立て直していくか。コップの水は「まだ半分ある」という見方で歩んでいきたい。



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