2015年1月21日

【Nuke】健康対策パブコメ

環境省へのパブコメ出しました。

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案件番号: 195140066
案件名:「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議の中間取りまとめを踏まえた環境省における当面の施策の方向性(案)」に関する意見募集について

所管府省・部局名等: 環境省 総合環境政策局 環境保健部 放射線健康管理担当参事官室

意見・情報受付開始日: 2014年12月22日
意見・情報受付締切日: 2015年01月21日


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【意見その1】
受付番号 201501210000329056

(2)福島県及び福島近隣県における疾病罹患動向の把握
について、「がん以外の疾患」については「既存のデータベースを活用する」との方向性が示されているが、これでは不十分・不明確である。

 チェルノブイリ原発事故以降、放射能汚染区域においては、甲状腺がん以外にも、甲状腺機能低下、白内障、心臓疾患、免疫不全、白血病、糖尿病をふくむ多種多様な内分泌系疾患などの増加が確認されており、とりわけ子どもにおける疾患の増加が見られる。

 ウクライナ・ベラルーシ・ロシアにおいては、福島県中通り地方よりも汚染度の低い地域でもこれら疾患の増加が現実におきていることから、福島原発事故による広範な汚染区域においても、予防原則にたって、多種多様な疾患や症状の増加に備えた健康管理・支援体制を早急に整える必要がある。

 これまでの福島県健康調査においては、甲状腺がんや「心の健康」など狭く限定された疾病のみを想定した調査がなされてきたが、今後はこれらに加えて、甲状腺炎、甲状腺機能低下、白血病、骨髄異形成症候群(MDS)、貧血、白内障、循環器系疾患、肝機能低下、免疫・内分泌系障害、乳がん、糖尿病など、幅広い疾患を想定した検診項目を立て、血液像の詳細な検査、心電図検査、尿検査も含めて長期間実施する体制を整えるべきである。放射能汚染は県境を越えて大きく拡がっており、健康調査と医療費減免を含む医療保健支援は福島県外でも実施していかなくてはならない。現在かならずしも顕著な汚染が残留していなくとも事故直後に放射能雲が通過した地域も対象に含める必要がある。

 福島原発事故による県外避難者は、46都道府県860市町村に離散しており、10年後、20年後には、福島原発事故で被ばくした人々が全国のあらゆる市町村で暮らしている状況を想定して、医療支援の態勢を準備することが求められる。したがって、国が責任をもって健康管理体制を構築するとともに、都道府県の保健行政、基礎自治体である市町村の臨床現場との連係を重視して対処すべきである。臨床的な早期把握と必要な医療保健支援とをうまく繋げるためには、一方では多様な領域の専門医との円滑な連絡が不可欠であり、他方では地元の開業医や保健師をふくむ総合医療・保健関係者との連携が、ともに重要である。そのためには、環境省・厚生労働省・文部科学省が省益や権限にこだわらず協力しあうことが必須である。

 環境省においては、「子どもの健康と環境に関する全国調査」(エコチル調査)など既存の調査プロジェクトの枠組みや経験を活かすことも重要である。健康管理支援体制の設計・運用・評価、および健康データの一元化と利用については、倫理的な側面もふくめ、透明性・独立性・公正性(とくにメンバー構成における公正さ)を備えた検討委員会による監査が求められる。

 現行の医師法においてはカルテ保存期間が5年とされているが、労働安全衛生法による事業主健診では(想定される有害物質の種類に応じて)30年ないし40年の保存が定められている。原発事故災害も長期の健康影響が懸念される「公害」であるとの観点から40年ないしそれ以上のデータの保全が重要であり、この点を法令化すべきである。

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【意見その2】
受付番号 201501210000329089

 100mSv以下の放射線被曝(いわゆる低線量被曝)の危険性について、中間とりまとめではあたかもリスクが証明されていないかのように記載されているが、最新の科学的知見に照らせば明白なエビデンスが続々と提出されており、そのことについては専門家会議に招聘された複数の外部専門家から会議の席上、具体的に指摘があった筈である。中間とりまとめがこれらを無視しているのは重大な瑕疵である。

 低線量被曝による健康影響を示す疫学的調査データは少なからず存在する。代表的なものとして、

・広島・長崎原爆被爆者寿命調査(LSS)第14報(Ozasa K et al, 2012, Studies of the mortality of atomic bomb survivors, Report 14, 1950-2003: an overview of cancer and noncancer diseases. Radiation Research 177:229-243)

・テチャ川流域(マヤーク再処理工場爆発事故の影響地域)住民の疫学調査(Krestinina LY et al, 2007, Solid cancer incidence and low-dose-rate radiation exposures in the Techa river cohort: 1956-2002. International Journal Epidemiology 36:1038-1046)

・15か国核施設労働者におけるがんリスク(Cardis E et al, 2007, The 15-country collaborative study of cancer risk among radiation workers in the nuclear industry: estimates of radiation-related cancer risks. Radiation Research 167:396-416)

・原発周辺で小児白血病に有意な増加がみられるとしたドイツの調査(Koerblein A, 2012, CANUPIS study strengthens evidence of increased leukemia rates near nuclear power plants.  International Journal of Epidemiology 41:318-319; Schmitz-Feuerhake I et al., 1997, Leukemia in the proximity of a German boiling-water nuclear reactor: evidence of population exposure by chromosome studies and environmental radioactivity, Environmental Health Perspectives 105, Supplement 6:1499-1504)

・子どものCTスキャンと白血病・脳腫瘍の発症の相関についての英国の調査(Pearce MS et al, 2012, Radiation exposure from CT scans in childhood and subsequent risk of leukemia and brain tumors: a retrospective cohort study. Lancet 380:499-505)

・CTスキャンによる医療被ばく(5ミリシーベルト前後)で子どものがん増加が確認されたオーストラリアでの大規模疫学調査(Mathews JD et al, 2013, Cancer risk in 680 000 people exposed to computed tomography scans in childhood or adolescence: data linkage study of 11 million Australians. British Medical Journal 346:f2360)

などがある。

 これらの知見に照らせば、福島原発事故の影響地域(福島県内に限らない)においても予防原則に立った対処をとるべきことは明らかであり、国際的な標準でもあるLNTモデルに基づく考え方を遵守した施策をとっていくことが求められる。ICRPの2007年報告においても、LNTモデルが予防原則にふさわしいアプローチであることが明記されている。

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提出した意見は、以上2本。

「原発事故子ども・被災者生活支援法」との関係について、支援法の理念に即した施策を具体化せよ、などなど言いたいことは他にも色々あったのだが、時間切れ(・_・、)


● 専門家会議(いわゆる「長瀧会議」)の「中間とりまとめ」のあまりのひどさについては、「放射線被ばくと健康管理のあり方に関する市民・専門家委員会」によるカウンターレポートで厳しい批判がなされている。 → 経緯こちら レポート本体(PDF)こちら 

● 専門家会議の委員である春日文子さん(日本学術会議・前副会長)は、環境省の施策案の不十分さについて、また専門家会議の「中間とりまとめ」それ自体の不十分さについて、雑誌『科学』2015年2月号に寄せた文章「環境省専門家会議中間取りまとめを踏まえた新たな施策の要望」において切々と述べておられる。


● ツイッターでおなじみ、study2007さんのパブコメは → こちら

● 国際環境NGO「FoEジャパン」が出したパブコメ → こちら

● 原子力市民委員会の報告書『原発ゼロ社会への道 ── 市民がつくる脱原子力政策大綱』の第1章第4節「健康の権利」もぜひ御覧あれ。 → こちら



2015年1月16日

【Nuke】高浜原発パブコメ


パブリックコメント(パブコメ)として提出した意見を公開します。

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http://www.nsr.go.jp/public_comment/bosyu141218_01.html

案件番号: 198252317

案件名: 関西電力株式会社高浜発電所3号炉及び4号炉の発電用原子炉設置変更許可申請書に関する審査書案に対する科学的・技術的意見の募集について

所管府省・部局名等: 原子力規制委員会 原子力規制庁 原子力規制部 安全規制管理官(PWR担当) 

意見・情報受付開始日: 2014年12月17日
意見・情報受付締切日: 2015年01月16日

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受付番号 201501160000327477

(1)原子炉施設の安全規制において、住民避難をふくむ防災対策の実効性を確立することが極めて重要であるにもかかわらず、そのことが真摯に検討されていない。東電福島事故の教訓を踏まえて、広域のモニタリング体制、複合災害における避難交通路の脆弱性、ベント実施と住民避難指示の連係など、具体的かつ詳細に検討すべきである。高浜原発については、とりわけ直近住民の避難経路の極度の脆弱性と琵琶湖に汚染が及んだ場合の対処と責任について、徹底的に審査すべきである。

(2)過酷事故発生時に、汚染水漏洩を確実に阻止する手立てがとられていない。高浜原発の場合とりわけ敷地面積・地形の制約から、福島事故におけるようなタンク敷設が困難であり、深刻な海洋汚染をひきおこす(それは同時に重大な国際問題をひきおこす)ことが危惧される。

(3)福島原発事故においてもヒートシンクの健全性をめぐる問題が指摘されたが、高浜原発においては特に、冷却用の海水取水口から原子炉建屋にいたる水路の物理的脆弱性がおおいに懸念される。地震動により水路を構成するU字管の継ぎ目がずれて、必要とする冷却水の流量を確保できず、炉心冷却が途絶える事態が十分起こりうる。この点の評価と抜本的対策をとるべきである。

(4)東電福島事故においては、炉心損傷を防止しえず、格納容器ごとの冷却というきわどい対応を迫られた。高浜原発においても同様の事態が起こりうることは審査書も想定しているようだが、そもそもそのような想定は、新規制基準(規則の解釈第37条)にいう「「炉心の著しい損傷を防止するための十分な対策が計画されており、かつ、その対策が想定する範囲内で有効であること」という要求を満たし得ないものではないか。審査書においては、規制基準にいう「格納容器の機能に期待できる」とする事故想定の範囲が明らかにされていない。

(5)高浜原発の今回の審査対象の炉においてはMOX燃料の使用が計画されているが、審査書においては、「減速材温度係数とドップラ特性にはMOX燃料の特性を考慮する」とされているのみで、重大事故においてMOX炉心におこりうる事態を十分解析・評価する姿勢に欠けている。また、照射済みMOX燃料が使用済み燃料プールに置かれているときに重大事故が発生した場合、福島原発事故において発生した以上の危機が懸念される。この点についての考慮も欠けている。

 この他にも、新規制基準それ自体に含まれる欠陥、圧力水型軽水炉の構造に由来する問題、また高浜原発の立地条件等に由来する固有の問題、いずれの次元においても、審査書では十分に評価されていない多くの問題があり、今回の意見募集において寄せられるであろう数多くの具体的指摘をふまえ、審査をやりなおすべきであり、そうしなければ高浜原発の運転にあたっての安全性が確保できるとは到底言えない。

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以上、細川が提出した意見でした。

原子力市民委員会では、高浜原発パブコメの文例集を公開していますので、ぜひ御覧ください。